唆されて木に登る

 先週の朝日新聞「be on Saturday」の1面は映画監督の山田洋次さんだった。「寅さん」シリーズを世に出し、「幸福の黄色いハンカチ」など幾多の名作をものにしている日本を代表する映画人、文化人である。
 今週の「be on Saturday」は、中学生のように幼い顔をした男性だった。少し顎を突き出し気味に、パーカーのポケットに手を突っ込んだまま歩く若者。よく見れば国会前のデモを主催した奥田愛基氏(23歳)であった。ううむ、それにしても山田洋次さんから奥田愛基氏という落差に誌面構成者の意図を疑いたくなる。こうなると「その時々の有名人を出せばいい」ということだけなのだろう。
 写真では精一杯の虚勢を張ったような表情をつくってはいる。しかし、見た目には存在感の薄い普通の若者でしかない。しかし朝日の記者は懸命に普通の若者を持ち上げる。先週の山田洋次さんの輝かしい経歴を並び立てるように、「九州で生まれ、ホームレス支援活動家の父、それを支える母、本人も幼いころから炊き出しの手伝いをした。中学校でいじめにあって不登校。沖縄の離島に転校。高校は島根の全寮制。その後、東北大震災でボランティアに行ったがモノにならず、大学を休学してカナダやアイルランドに旅行。帰国後、政策に異をとなえるサヨク系学生の団体を結成する」国会前で「戦争反対、安倍辞めろ」と拡声器で喚いた以外は、特筆するほどのことではない。
 紙面を読むと、彼は高校時代から「生死」について考えたそうだ。BC級戦犯の話を聴いたり、戦中派の祖母の思い出語りを耳にして「戦争は二度と繰り返してはいけない」とのメッセージを感じたのだそうな。それっぱかりで解ってしまうとは天啓がひらめいたんだね。やっぱり宗教団体なのだ(笑)。
 彼は、弁護士や学者とともに政策提言のためのシンクタンクを設立した。自身は大学院に進み政党政治を研究するのだという。
 それでいいいのだろうか。彼はマスコミに引っ張られていろいろな場面に登場しているが、その言説などを見聞きしても、まだまだ人生経験が浅く、勉強不足であることは丸見えだ。おそらく同年代の若者に彼を軽く凌駕する政治経済の知識をもつ若者はごまんといる。付け焼刃で政治経済を職業にしようたって、それほど世間は甘くない。だから奥田氏は大学を卒業してだから大学院に行って勉強するんだ、ということなのだろうが、むしろそうならば、活動体と一度手を切って真っ白なところから勉強し直したほうがいい。少なくとも、彼を取り巻いていた大人たちは色が着きすぎている。社会に出て、世間を知って、本を読んで、それからでも政治活動はできる。まずは、マスコミや活動体に踊らされるのではなく、まっとうな仕事につき、地道に仕事を重ね、現実の現場を知ることこそ、大切ではないか。
 一週先んじた山田洋次さんを見よ!かれはこつこつと人生を積み重ね、大監督になった。それでも左筋を維持している(笑)。一足飛びに大立者にはなれない。要は大人の活動家に利用されているだけということを認識したほうがいい。日常に戻れ。