チャタレイ夫人と福田恒存

 とある読書会の課題本に『チャタレイ夫人の恋人』を推薦したことがある。ある程度人を集めなければならないということで、多くの人が読んでいるであろう「村上春樹」に負けてしまった。今でも惜しいことをしたと思っている。
 これには発端があってね、昨年の年一読書会の課題図書が、福田恒存の『保守とは何か』(文春学藝ライブラリー)だった。その時に『保守とは何か』を理解するのには『チャタレイ夫人の恋』を読むのが早道なのだということを、メンバーの一人が語ってくれた。お堅い「保守」の話が、「ワイセツ本」として警視庁出版物風紀委員会が指定した本がつながるとはお笑いだ。なにがお笑いかというと警視庁出版物風紀委員会がということなのだが。つまり本をきっちりと理解することなく表層の部分だけで興奮し、「ワイセツだ!出版禁止!」としてしまった。己の低能を後世に晒してしまったというわけね。
 65年前の今日、警視庁は『チャタレイ夫人の恋人』を発禁処分として書類送検をした。裁判では特別弁護人として福田恒存が起用されている。裁判の様子を撮影した写真が残っているが(ネット上で探してみたが見つからなかった)、被告席に座る翻訳者(伊藤整)と版元(小山久二郎)の背後に福田恒存が写りこんでいた。今まで気がつかなかった。
 偶然にも昨日、仕事帰りにいつもの駅前の本屋によって、『総特集 福田恒存 人間・この劇的なるもの』(河出書房新社)を買ってきたところだった。これには福田の幾葉かの写真が挿しこまれていて、それを見て、裁判の写真を見て、気がついた。

 そして福田は、戦後の演劇にも強く関わっている。そもそもデビューが築地座という劇団の脚本応募で佳作に入ったことである。その後、戯曲の「キティ颱風」「龍を撫でた男」「明暗」などを文学座で書いている。
 また「財団法人現代演劇協会」を設立するとともに、劇団「雲」を旗揚げする。2年後には「雲」の姉妹劇団「欅」を結成し、後年、その二つを合併し「昴」と称することになる。「昴」は現在でも健在で、定期的に上演を続けている。
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 6月は「ホテル・スイート」、7月は「あれ?すみません!番号、間違えました?」、来年1月は別役実の作で「街と飛行船」である。
 ああ、久しぶりに本格的な演劇を見たくなった。