本から本へ

 岡崎のブックオフで、高澤秀次『戦後知識人の系譜』(秀明出版会)を見つけた。内容は丸山眞男清水幾太郎福田恒存吉本隆明など、戦後知識人の思想の形成についてまとめた本となっている。丸山や吉本ではあまり触手が動かないが、清水、福田の項は読んでみたかった。さらに巻末は「司馬遼太郎、もう一つの思想家論」となっていたので、これは買わずにいられない。
 この本が切っ掛けになって、久しぶりに司馬遼太郎の対談集『人間について』(平凡社)を引っぱり出してきて再読することができた。『人間について』には司馬さんの死生観がつよくにじみ出ていて、考えさせられることが多い本である。
《私はお医者嫌いではありませんが、頭に動脈瘤があると言われても、取ろうとは思いませんね。それを大事にして、ほぼ一年ごとに仕事を片づけていっこう。三年目で破裂すれば、それで一応の幕にすると。まして、七十歳を超えたら、それこそ大事に持っていこうと思います。》
 まさに司馬さんはこの言のとおりに生き、死んだ。自分の死すら俯瞰していた作家は見事としか言いようがない。
 また『司馬遼太郎が考えたこと』(新潮社)にも「それでも、死はやってくる」という文章が収められていて、大陸で戦車部隊に配属されていた頃の体験が記されている。場所は明記されていないが、おそらく満洲北部の黒い砂漠の中のことであろう。草の中に横たわっていた時、念仏を唱えると《私を包んでいる空気とも合体した。砂漠の石くれとも合体した。死も区々たる問題に思われるようになった。》と書いておられる。
 司馬さんの死生観の成立はこの瞬間だと思われる。そしてその後50年を颯爽と生き抜かれたわけだ。凡夫のワシャには真似のできないところだなぁ。