フィデル・カストロ

 今朝の朝日新聞の総合面が、キューバカストロ前議長と岸田文雄外相が会談したことを写真入りで報道している。紙面の白黒写真ではよく判らないが、こちら
http://www.jiji.com/jc/zc?g=pol&k=201505/2015051300713&p=0150513at49&rel=pv
で見ると、カストロ氏が白とグレーのピューマのジャージを着ていることが判る。オランド仏大統領の時はアディダス三本線のジャージの上下だったから、カストロ氏はスポーツウエアを愛用しているようだ。
 ときにキューバ北朝鮮と比較される。強烈な個性をもったカリスマ指導者が現われて共産主義政権を樹立した類似性があるからなのだろうか。でも、指導者の資質が違うと、これほどまでに国のかたちが変貌するものなんですね。
 他の社会主義政権の最高指導者に見られるような、とくに北朝鮮ではそれが顕著である「自身の巨大な肖像写真や銅像」を国中に造らせる、というような愚挙をカストロはやらない。カストロの映像や写真を見ればお判りいただけると思うけれど、彼って格好いいんですね。すらりと背は高いし、理知的なまなざしはやさしい。あの独特の髭も決まっている。おそらく銅像にしたらもっとも格好いいのではないか。
 しかし、自分の顔を絵にも像にもバッチにもするような愚かなことはしなかった。基本的に頭がよかったし、性格もまともだったのである。これが嫉妬深く猜疑的なのをリーダーにするとまあとんでもないことになるんでしょうがね。キューバカストロでよかった。

 さて、そのカストロ、実は日本に対してとても好意的だ。2009年のワールド・ベースボール・クラシックに際してこんなことを言っている。
《日本は一億二千万以上の人口を有する豊かな先進国であるが、野球の発展に献身してきた。(中略)国民はプロ野球選手に対して厳しい水準を要求している。日本でプレーしたことのあるキューバの選手は、そうした水準の高さを熟知している。》
《日本のトレーニングは信じがたいほどに厳しく入念である。(中略)彼らはまるで自分自身に課した罰のように、進んでそれをこなすのである。》
 きちんと相手チームを分析して、敗けたキューバチームについてはこう言及する。
《わがキューバナショナルチームは、数時間のうちに帰国するはずだ。彼らが示したパフォーマンスに値する栄誉をもって彼らを迎えることにしよう。不運な結果をもたらした数々の失敗の責任は彼らにはない。》 
 他国に敗けて帰ってきた選手を、そのまま収容所送りにするどこぞの国とはえらい違いだねぇ。
 そしてカストロはこう締めくくる。
《責められるのは私たちの方だ。私たちが失敗を正すのに間に合わなかったからだ。》
 リーダーは自分が「絶対」だと思った瞬間から堕落する。個人崇拝を忌み嫌ったカストロは「公」の人だったことは間違いない。
 カストロが元気なうちにアメリカと国交正常化ができてよかった。