魔法のホウキ

 村上春樹の読書会を考えている。村上春樹なら小説でもエッセイでも翻訳ものでもいい。それらでワイワイガヤガヤやれたらいいと思っている。ワシャ的には、村上春樹をそれほど読んではいない。どちらかというと縁の薄い作家である。
 でも、そんなことを考えていたら「村上春樹」関連のこんな本を見つけた。
 C・V・オールズバーグ『魔法のホウキ』(河出書房新社
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309261874/
子供向けに書かれた絵本で、村上春樹が翻訳している。子供向けとはいえ、漢字も多く小学校の高学年以上といったところか。
 物語は「魔法のホウキ」にまつわるほのぼのとした物語で、とてもすてきなラストが待っている。未読のかたはぜひご一読をお勧めしたい。ただこの時期だけに実に重く響く部分も抱えていて、複雑な読後感だった。本来ならホントによい絵本なんですよ。

 この物語の中に印象的なところが出てくるのだが、その前に少し物語をたどりたい。
魔法のホウキが一人暮らしのミンナ・ショウという女性に拾われる。そのことに感謝したのか、ホウキはせっせと働き出す。もちろん屋外でも一所懸命に働くので、それを目にした近所の人間がいぶかしく思い始める。女性たちはホウキに対して好意的なのだが、隣人の主人はきっぱりと言い切る。ここからの段である。
「あれは危険きわまりない悪魔の手先だ。あんなものが近くにいたら、我々は必ずや後悔する羽目になるぞ」
 昨日の日記にルワンダ虐殺について書いたが、まさにあの事件の発端のようだった。「ツチ族の存在を許せば、我々(フツ族)は必ず後悔する」ということなのである。
物語にもどるが、ある夜、男たちがミンナの家にやって来て「あのホウキを引き渡せ」と迫る。その結果、力のある男たちの言うことには逆らえず、眠り込んでいるホウキは男たちに持ち去られたのである。その後、ホウキは杭に縛り付けられて、火をかけられて燃やされてしまった。このあたりが、時期が時期だけにヨルダンのパイロットの悲劇と重なる。もちろんこれは絵本の問題ではなく、読む側の思いなので、オールズバーグにはなんの責もない。
 この物語は、まだ魔女が空を飛んでいた時代なので、おそらく中世の頃のお話だろう。そう考えれば、シリアが今、中世の混沌の中にあることを考え合わせれば似ていてもしょうがないか。