ルワンダの祈り

ルワンダの祈り』と題した単行本
http://www.amazon.co.jp/dp/4811384970/?tag=yahhyd-22&hvadid=49005311733&hvdev=c&ref=pd_sl_5wrja28jkx_b
後藤健二さんの手による。2008年12月に汐文社から発行された児童向けの書籍である。児童向けと言いながら、内容は濃い。ルワンダ内戦の末期におきたルワンダ虐殺に焦点を当てた後藤さんのルポルタージュで、読み進めるにつれ、ぐいぐいと引き込まれていく。
 このルポは、内戦・虐殺を生きのびた家族の物語である。その家族の視点をつうじて、昨日まで仲良くしていた隣人が突然凶暴な殺戮者になるという浅ましくも恐ろしい現実を描く。
 冒頭は、1996年にルワンダコンゴの国境地帯で、後藤さん自身が体験したエピソードから始まる。後藤さんは、ここであどけない表情の少年兵に殺されそうになった。そして命からがら逃げ延び、一息をついた町の酒場で銃を突きつけられ、有り金をむしり取られる。ここでもいつ撃ち殺されてもおかしくない状況だった。1回のルワンダ取材ですら2度の死線をかいくぐっている。おそらく別の回の取材でも何度も死を意識したことだろう。
 そんな体験を経ながらも、後藤さんの視線はルワンダの人々に好意的だ。それは、後藤さんがISILの支配地域(ラッカ)に入る前に残した動画メッセージにも滲みだしている。
「自分に何かあっても、イスラムの人を恨まないでください」
 本を読みながら、その言葉を思い出した。
「自分に何かあっても、ルワンダの人を恨まないでください」
 そんな後藤さんの意識がルポの底流に流れていることに気がついて、つい涙ぐんでしまった。
この本に書いてあることは、戦場での厳しい現実である。記述には残虐な箇所もある。そこについても後藤さんは視線を逸らさず文字として起こしている。しかし全体をとおして視線が優しいので、子供たちにとっていい読み物になっていると思う。
 戦場で苦しむ子供たち、女性たち、善良な人々の立場に寄り添い、戦場から弱者の声を届け続けていた。後藤さんはおそらくISILの占領地の子供たちにも優しい視線を間違いなく送っていた。シリアの野で困窮した人々に、手を差し伸べようと必死になっていたに違いない。そんな人物を、支離滅裂な理由にもならない屁理屈で斬首するとは……あまりにも愚かだ。

 後藤さんは、この本のあとがきをこう締めくくっている。
《最後に、いつも陽気なダンスとピアノで勇気づけてくれる一人娘と、彼女の日常を支え、思いやる心を育んでいる母親に心から「ありがとう」と言いたいと思います。》
 そのお嬢さんには、妹ができた。