歴史から享けるもの

 師走はどうにもやりくりがつかなくて定例の読書会が昨日になった。「なにも晦日にやらなくても」と思ったけれど、メンバーに「それでもやろう」という意気込みがあったのでやりました。
 課題図書は、磯田道史『天災から日本史を読みなおす』(中公文書)である。歴史から地震を検証することに焦点を当てた良書と言っていい。1970年代に東海地震ばかりを喧伝し、地震の余地が可能だと防災の方向を歪めてしまった東大地震研究所のメンバーに、歴史に学ぼうという謙虚な姿勢があれば、東日本大震災の被害はもっと抑えこまれていただろう。
 もうひとつ、磯田さんは地名を変えることの怖さを指摘している。今年の夏、土砂崩れで大きな被害を出した広島市安佐南区八木に「上楽寺」(じょうらくじ)という地名がある。ところが元々は「蛇落地」(じゃらくち)と呼ばれていたという。前近代は土砂崩れのことを「蛇落」と呼称していた。土砂崩れの痕は、まさに大蛇がうねって地に降りてきたようにみえる。そのことを知っている地の人々は、そのまま「蛇落地」と呼び、その土地を忌避していたのである。
 その先祖から戒められてきたことを高度経済成長期に捨てた。この部分は磯田さんの言を引く。
《この時代の日本人は技術と経済成長の信者であった。自然はコントロールできると、人間の優位を驚くほどに信じた。土砂崩れにしろ、原発事故にしろ、この時代の思想のツケを後代の我々は、いま払っている。》
 歴史、伝統、文化……そういったものに我々はもう少し畏敬の念をもって接していくべきではないだろうか。

 晦日ともなると公共施設は軒並みお休みだから、会議室は借りられない。そういった理由もあってのっけから居酒屋の個室で読書会&忘年会となった。だから、高尚な話は酒が入ればすぐに楽しい話になって夜は更けていくのであ〜る。

 今日はまた後程ごあいさつに登場いたします。