大阪湾クルーズ

 まだ意識は、神戸港の中突堤を出ていない。中突堤というのは、メリケンパークから南に突き出た神戸港を代表する波止場のこと。行ったことのある人はわかると思うけれど、海援隊の石のモニュメントがあるところですぞ。
 その突堤の先にオリエンタルホテルがあって、その東岸からルミナス号が薄暮のなか出港をした。席は3階、要は普通席、左舷側の窓際だったのがせめてもの救いか。出港して見えるのは神戸空港である。セントレアでは離陸着陸の機体がいつも見られるのだが、ワシャが見ている間に機影は確認できなかった。
 船は神戸空港の西の海域で大きく右に舵をきる。そして神戸市の沿岸を西に進む。ワシャらのテーブルは左舷だったので、見えるのは凪いだ大阪湾ばかりなりけり。あたりが暗くなって、遠くに灯りが見える。地元の同級生から「関空ではないか」という説もあったが、こんな曇った日に神戸沿岸から関空が見えるんかいな。
 須磨沖を通過するころにはとっぷりと暮れて、明石大橋のイルミネーションが前方に見え始める。恋人たちにとっては、なかなかのデートスポットになるわけですな。でも、ワシャらオッサン軍団にとってはどうでもよくて、とくにワシャには客船の窓の構造や船内の通路の様子、外に出るためのルートなどのほうが気になって船内をうろうろしていましたぞ。
 それでも明石沖でUターンして左舷が神戸側に向くと、席にもどってワインを呑みながら夜景を堪能した。ワシャはワインなど呑みたくないのだが、ビールとワインと草履のようなステーキしかないので仕方なく白を呑んでいるのじゃ。
 遠くに神戸の灯りが過ぎていく。その手前は真っ暗な海面である。その暗闇の中を青い光がスーッ、スーッと走る。最初、視野の端を青灯がよぎった時は何かわからなかったが、海面を見ていて気がついた。本船の引き波の白い波頭に、船の青い照明が映っているのだった。海面をはしる幽かな青い光は、とても印象的だった。
 ビールとワインしかなく、肉中心の料理に辟易としていたが、海面のささやかなイリュージョンに出会って満足したのであ〜る。
 ふたたび中突堤に接岸したのは、10時を回っていた。その後、仲間とともに海鮮料理で呑みなおしたのは言うまでもない。