最強の入眠ツール

 知り合いが、今月末をもって入院するという。律儀にもそのことを知らせてくれた彼はワシャの前で涙をみせた。ストレス性のなにやら……とか言っていたが、覚えていない。ただ過重な業務が彼を苛んだ結果なのだろう。

 経営陣は「少数精鋭」を声高に叫ぶ。戦時中の標語でもあるまいに、このスローガンがどれほど多くのサラリーマンを追いつめていることか。
 それに、普通に働いている人たちは「精鋭」でも「企業戦士」でもない。平凡な幸福をもとめる小市民なのだ。それを、「費用対効果」とか「成果主義」という無機質な数値に置き換えることによって生身の人間をどんどん追いこんでいく。ワシャの周りでもどれほど多くの人間が心を病んでいることか。
 曽野綾子さんは言う。
「私たちは凡庸でいいのですから、どこかでちょっと破れ目をつくって自分のしたいこともする、というくらいの人生が妥当だと思います」
 会社、職場はワシャらの人生を最後まで看取ってくれるわけではない。たまたま就職はしたが、多くの人は若干の不本意さを感じながらも、一時の糧を得るために努力をしているに過ぎない。その上、会社の論理で心まで殺されてたまるものか。
 
 いろいろなストレスから睡眠障害に陥っているケースがある。上記の知人もそうであるし、酒を飲んで寝るワシャなんかもその中に分類されるのかもしれない。日中に何があっても、布団に入って目をつむると瞬時に爆睡できるという人、どこでもいつでも寝ることができるという神経の太い人が、心からうらやましいと思う。

 五木寛之さんが『林住期』(幻冬舎)の中で、最強の入眠財(剤ではないですぞ)を紹介している。
「眠りにつけなくて困るときには、ポーランドの歴史の本を読む。これは十ページと続かない。すぐに眠くなるのは、私だけだろうか」
 さっそく、ポーランドの歴史を入手しましたがな。J・ルコフスキ/H・ザヴァツキ『ポーランドの歴史』(創土社)である。ううむ、これはこれでおもしろい。最強の入眠財とまでは言えませんぞ。

 そうそう昨日の研修のことである。2時限目まではうまく進んだのだが、3時限目に入って緊張が途絶えた。話があちこちに飛び回って終息させるのが大変だった。やれやれ。