眠る夜のために

 先日、友だちと飲んでいてこんな話になった。その友だちは理系の人で、ワシャは根っからの文系人間である。ワシャは小学生のころから数字を見ると数字として認識するのではなく、絵として見てしまう癖があった。例えば「22222」などは白鳥が湖面を縦隊に並んで進んでいるようにしか見えないし、「44444」はヨットレースに見える。「66666」はセグウエイが並んで走っている。「88888」は……おっと話をもとに戻す。友だちとの会話だった。だいたいのところを再現する。

ワシャ「このところ夜寝つかれないのじゃ」
友だち「布団に入って本を読んでいるでしょ」
ワ「ふつう読むでしょ」
友「私は理系なので、ちょっと難しい本を読んでいるとすぐに眠くなります」
ワ「うらやましいですな。ワシャの場合は本に入り込んでしまってどんどん目が冴えてきますぞ」
友「ワルシャワさんの場合は活字が好きだからそうなるんですよね、だったら逆に活字ではなく数字にすればいいんですよ」
ワ「ワシャは数字を見ると、アヒルとかヨットに見えてしまうのじゃが……」
友「数字ゲームのナンプレやったらどうですか」
ワ「ダメダメ、そんなのやったら眠くなっちゃうもん……」
ワ・友「だったらいいじゃないですか!」
ワ「そうか、いつも脳を偏って使っているから興奮して眠られないんですな。他の部位を使えばいつもの脳は休むことができる。う〜む、なかなかいい考えですぞ」
友「じゃぁナンプレを買って……」
ワ「いやいや、やっぱりナンプレはやはりやりたくないので止めておきます。それよりも別のことにしましょう」
友「では楽器などはどうです?」
ワ「いいですね。楽器なら昔、学生の頃、バンドエイドというコミックバンドをやっていたことがありました。そこでフォークギターを弾いていたのでギターにしましょう」
友「ギターはありますか?」
ワ「たぶん倉庫の天井裏にあるかもしれません。一度探してみませう」

 そんな経緯で、ギターでリラックスし熟睡できるかどうか試すために、ワシャは久しぶりにギターを始めることになった。そこでまずギターを入手しなければならない。ということで、昨日、別棟にある倉庫の探検から始めた。そこにワシャの40年くらいの堆積物が詰まっている。そこの発掘に着手した。
始め出すとこれがなかなか根が深い。本・雑誌、おおお……昭和30年代の「文藝春秋」もある。これは父親の蔵書だな。おっと読みはじめては先に進めない。我慢我慢。スキーやウインドサーフィンの道具やウエア、スキーの板だけでも数セットはある。でも、もう古くて使えない。自転車の部品もあれば、なんだか分からない骨董のような扇風機。額もあれば掛け軸もある。茶道具やら、あらあら抹茶茶碗もこんなに無造作に積んで大丈夫かいな。えっ炭!炭が大きな袋に3つ。ここは燃料貯蔵庫かいな。およよ、昔、古い家の時に座敷にあった座卓。これも高かったんだよなぁ。これらはみんなワシャのものなんですよ(トホホ)。
 奮闘すること2時間、ようやく倉庫の天井裏に上がることができ、そこで愛しのギターに再会したのだった。しかし、何十年という埃はただ事ではない。大寒に舞う埃とは埃が違う。ギターのクリーニングがこれまた大変だった。
 切れている古い絃を外し、隅から隅まで汚れをとれば、まあなんとか使えそうでしょ。早速、知人でやたらギターに詳しい男がいるので、電話をして絃を売っている店を確認する。市内にあったので、矢も盾もたまらず出かけたのだった。

 そこはギター屋さんだった。店番のオネーサンとの会話。

ワ「こんにちは」
オネーサン「いらっしゃい」
ワ「フォークギターの絃が欲しいんですけど」
オ「アコースティックならこのあたりもものでいかがですか?」
ワ「フォークギターなんですけど……」
オ「ええこれでいいですよ(笑)」
 そもそもアコースティックがワシャには分からなかった。そんなレベルなのじゃ。
ワ「6本欲しいんですけど」
オ「一袋にみんな入っています」
ワ「そうでしたっけ」
オ「そうですよ(笑)。また始められるんですか?」
ワ「ええ健康のためにね」
オ「健康のために(笑)」
ワ「ええ(笑)」
オ「楽しみですね」
ワ「はい」

 ギター屋さんから帰る途中で、いつもの駅前の本屋よって『いきなり弾けるアコースティックギター』(西東社)と『はじめてのひさしぶりの大人のフォーク・ギター』(kmp)を購入。
 家に帰って絃を張ろうと思うのだが、なにせ数十年ぶりですがな。張り方などとうの昔に忘れていておりまっせ。仕方がないので、また、例のギターに詳しい男に連絡をとって張り方を教わったのだった。

 おかげで今ワシャの手元には絃の張替わったフォークギターがある。学生時代以来でなんだかうれしい。でも、ガキじゃないので、朝から弾くわけにもいかず、我慢しようかな、夜まで楽しみにとっておこうかな。と言いつつもなぜか左手の指先がすでに痛い。むふふふふ。