北の空から

 北海道に持って行った手帳と新書がそれぞれ一冊ずつある。そこには乱れた文字が乱雑に並ぶ。まず手帳に書いてあるなぐり書き。
「加速」「浮遊感」「気色わるし」
 これは、離陸のときのメモである。滑走路に入り、737が加速を始める。轟音とともに機体がふっと浮き上がる。この感覚が嫌いだ。

「17C」「赤ちゃん」「ドヤ」
 ワシャは主翼後方の17Cに座っている。左3シートの通路側である。ワシャの席から2列前の15Dに母親に抱かれて赤ちゃんがいた。赤ちゃんはまったく動じる様子もない。びびっているワシャを「ドヤ顔」でじっと見つめている。クヤシー!

「子ヤギ」「こまく」「佐藤優
 とにかく空を飛んでいるという現実から逃避しなければいけない。まず、飛行音を遮断する。ヘッドホンを装着しボリュームをガンガンに上げる。わあああ、鼓膜が破れそうだ。しかし、飛行音はまったく聴こえない。この時、流れていたのが、グリーグの「山の娘op.67 子ヤギのダンス」だった。
 次は視覚である。目を自由にしておくと勝手に窓の外をのぞき込み、高さを実感して恐れおののいてしまう。だから目をくぎ付けにしておく必要がある。これは読書に没頭すればいい。すでに読む本は用意してある。佐藤優『帝国の時代をどう生きるか』(角川oneテーマ21)を読みまくったのだった。

「衝撃」「勝った」「スッチー」
 飛行は順調だったと思う。ワシャは外界との接触を断絶しているのでよく解らない。ただ、振動などは絶ちようがないので、機体の揺れや、気流の衝撃はどうしても伝わってくる。大きい衝撃があった。機体だ動揺している。これはびっくりした。そしてワシャ同様に15Dの赤ん坊もびっくりしたらしい。ワシャを見る顔がみるみる歪んでいく。そして泣き出した。「ふえ〜ん」とでも声を上げているいるのだろうが、ワテには聞こえまへんでぇ(笑)。ワシャは驚いたが、泣いていない。勝った!
 それにしてもキャビンアテンダントと言うんですか、スッチーさんと呼ぶんですか、そのあたりはよく判らないが、2人のオネーサンが駆けつけてきて、ドヤ顔の赤ん坊(今は泣き顔ですけど)をなだめている。入れ代わり立ち代わり、おもちゃやお菓子を持ってくる。ワシャの耳元では「グリーンスリーブス」が流れている。その音楽をBGMにスッチーさんと赤ん坊のやりとりがとてもいい絵になっていた。

 手帳は行きのフライトで使った。帰りは手帳を出すのを忘れてしまったので、新書の余白にメモる。ここに衝撃のメモがあるのだが、それについては明後日のココロだ〜。