田舎侍と職人風の酔っ払いがもめている。あ!酔っ払いが侍に唾を吐いた。
「おのれッ……武士の面部へ唾を吐きかけたな」
「……唾をかけて怒る面(つら)か。面目ないつらしてやがって……まごまごしていると、素首(そっくび)引っこ抜いて胴がらン中へ叩き込むぜ。もういっぺん引っかけてやる。カーッ、ぷーッ」
二度目の唾が侍の紋服にかかったから収まらない。
「あいや待て!わが面部ばかりなら勘弁もなるが、殿より拝領のご紋服に唾を吐きかけるとは、その分には捨ておかん」
侍、刀の柄に手を持っていったとみるや、抜く手も見せずに、
「鋭!」
刀を一閃させると、元の鞘に収めた。
ご存知、ご存知ではないかもしれませんが、落語「首提灯」の1シーンである。
侍の見事な居合斬りで、この酔っ払い、首と胴とが切り分けられているのだが、本人、酔っぱらっているから気がつかない。
「いやに首がぐらぐらするじゃぁねえか。いつからこんなに行儀悪くなっちまったんンだ」
と、ぼやきながら歩いていると、運悪く火事騒ぎに遭遇してしまう。
「おいおい、押しちゃあいけねえよ。こっちは壊れものを持ってんだから……冗談じゃないよ……いけねえ混んできやがった、落っことすといけねえ」
自分の首を、ひょいと差し上げて、
「はいごめん、はいごめん」
このサゲは「見立て落ち」と言う。首を提灯のように見立てるところからこの名がついている。それにしても、実際にはくっついている落語家自身の首を、離れているように見せるテクニックは尋常ではない。ワシャは、談志で見たことがあるが、それはおもしろかった。
長々と落語の噺をしてきたが、どこが浜松町界隈と関係があるのかというと、実は、この「首提灯」の舞台が芝増上寺あたりとなっているからである。
「昨日、早めに上京し、浜松町界隈を、散歩しているその時に、大門通りの西っぺた、増上寺前の信号の、脇に立っている高札に、ゆかりが書(け)えてあったのだ」
ということなのである。意味もなく七五調でまとめてみたのはご愛嬌ということでお許し願いたい。
『江戸名所図会』を見ると、当時の増上寺境内域は、現在の「芝大門交差点から西側の一帯の、東西600m南北900m、総面積54haの広大なものであった。さすが将軍家の菩提寺だけのことはある。
ちょうど雨も上がり、芝公園の緑もうるおって、森林浴のような散策ができた。日比谷通り沿いの公園内には、ペルリの胸像があったんですね。どうやらアメリカから贈られたもののようですが、少しペルリを美化しすぎているような気がしましたぞ。