談志に関するメモ

 3日午後4時からNHKBSプレミアムで「ドキュメント立川談志」が放送された。談志最後の「芝浜」前夜の一人稽古が全部見ることができた。自宅の台所で、座椅子に座って出ない声で必死に稽古をする。すごいなこの人は。
 それも含めて、いい番組だった。気がついたことを書き残しておこう。

 山城新吾が自分のつくる映画に、友情出演してくれと頼みに来ていた。談志は、「出てもいいよ」ということになったらしい。ただ、談志は一点にこだわった。
「友情出演なんてタイトルに出すのはよしてくれ。出すなら『無料出演』にしつくれ」さすがの山城も『無料出演』なんていうタイトルは未だかつてないから、返答に困っていると談志はこういった。
「無料出演っておもしれえじゃないか。これが落語家の矜持だな」
 しかし、山城は、映画人として呑めない。
「だったら主演料は200万だ」
 話は流れた。

 志らくの弟子のらく朝が真打試験に臨んだとき、談志の出した「三方ヶ原」の講談を巧くやれなかった。談志が「ダメだ」と決めつけると、らく朝は「別の演目をやらせてほしい」と直談判をする。
 談志はそれを許さなかった。らく朝の前で、いくつもの講談をスラスラとやって見せこう言った。
「おめえにこれができるかい?できねえだろう、だから稽古をするんだ」

【談志語録メモ】
「食い物は粗末にするな」
「幸福の基準ってえものを決めなければいけねえ」
「予定調和なんか糞くらえ」
「勝手に生きるべし」
「経験したことがすべて芸につながる」
「伝統を現代に持ち込む。どうアレンジしたっていいが、その底には江戸の風が吹いていなければいけない」
「人生成り行き」
「落語は人間の業の肯定である」
 これはあまりにも有名な談志の言葉。

 談志が、台所のシンクの前に置かれた坐机に座り、しゃがれた声で稽古をしている。その坐机の上に文庫本が2冊載っていた。フォーカスは談志に合っている。だから、文庫本はぼけてしまう。ただ、その文庫が日本人作家の新潮文庫であることは判った。苗字が2字、名が1字。「それなら太宰治」とも思ったが、新潮文庫の太宰の背は黒だ。違う。背の茶色なら志賀直哉だが、4字だからこれも当てはまらない。
 談志が何を読んでいたのか、気になってきた。仕方がない。今日、仕事の帰りに本屋に寄って調査してこようっと。