一年一度のお参り

 いやー、三河へ戻ってみれば、早速、休日出勤が組まれていた。これはカストマーに対するちょっとした説明会だったのだが、それで2時間。その他に、研修へ行っていた間の業務の進捗や、トラブルの報告を受けていたら、どんどん時間が過ぎていく。
 ようやく夕方になって時間ができたので、友人宅を訪う。友人宅といっても、その友人はいない。横綱貴乃花が引退した年だったと記憶している。その年の7月に、仕事先のホテルで突然体調を崩し、そのまま帰らぬ人となった。
 文月中旬、その悪友の命日が巡ってくる。その日に合わせて、職場の仲間たちと悪友の仏壇の前に集まり、その後に悪友をしのんで呑みにいくのが年中行事になっていた。
 ところが今年はワシャが立川に押し込められていたので、それに参加することが叶わなかった。だから、昨日、単身でお邪魔をしたわけだ。

 玄関で声を掛けると、母親と奥さんが出迎えてくれた。玄関を抜けて仏間に入ると、次女が待っていて、ぺコンと頭を下げている。
「おお、大きくなったなぁ」
「高校生になったんですよ」
 と奥さんが言う。
 おやおや、他所の子の成長は早いというが、もう高校生になったのか……と思いながら、昨年もお邪魔しているので知ってはいるんですよ。でも、1年ぶりだから、その成長に目を見張るわけですわ。次女をちょこちょこっとからかう。ワシャには娘がいないのでこういったことが楽しい。
 話が一段落したところで、もっともらしく居住まいを正すと、仏壇の前に進み手を合わせて、「なむなむなむなむ」ともっともらしく額づく。
 その後、お茶を一杯いただき、ワシャの駄話を披露して(これには3人とも大笑いしておりましたぞ)、頃合いのいいところで辞した。
 
 日月(じつげつ)流るるが如し。もうあれから8年の歳月を刻んでいるのか。悪友の足にまとわりつくようにしていた小さな女の子は高校生だわさ。母親、奥さんと娘2人は、手を取り合ってなんとか生きている。
 初めは、は嫁姑のこととて、小さなイザコザが絶えなかったようだった。しかし、昨日見る限りでは、お互いに少しずつ譲り合いながら、一つ家族として形を成してきているような、そんな気がしている。「子はかすがい」ならぬ「孫はかすがい」となっているようだ。次女が4歳のときに祖母(悪友の母親)に出した手紙が出てきて、それを3人で読んで笑っている姿は、間違いなく家族だった。

 ホッとした気持ちを抱いて家路についたのだった。