どんぐりにも個性が(11日目)

 同じ施設に100人が収監されている。すでに10日が経過したが、最初は、どいつもこいつも似たり寄ったりだと思ったが、10日も経つといろいろな個性が見えてきた。

 入所した夜、「まずは最初が肝心だ」と考えた。だから、近所のコンビニでビールをしこたま買い込んで、研修所5階のフロアの談話室と称する部屋で網を張った。寮生活が始まったばかりだ。誰もが右も左もわからない。だから、談話室に灯がともると「なにかあるんだべか」とのぞきに来る。そいつらを片端からひっ捕まえてグループを形成していく。
 こういうものは、けっこう後先が重要になってくる。だからいの一番に待ち構えることが大切だ。15分もすると談話室には10人ほどの男たちが集まった。車座になって酒を飲んでいる。輪の中心にワシャが座っている。ワシャが一番最初に談話室に居たし、最初のビールを差し入れているから、全員が自然とワシャの指示に従うかたちになる。
 そのうちにそれぞれが持参してきている地酒を出し始め、つまみも次々に登場し、大宴会になったのだった。
 宴の途中で、年齢のことを言い出したヤツがいた。要はこのグループを年齢順に編成し直すことで、年かさの自分の発言力を高めようということらしい。そいつの主導で順番に年齢を言うことになった。そいつは、年齢の若い者がいると「なんだ、ずいぶん年下じゃないか」とさっそく兄貴風を吹かせようとする。
 ワシャの番になった。
「43歳です」
 と、笑いをとってから、
「おいおい、年齢なんて関係ないじゃないか。みんなこの寮に集まってきた仲間だ。序列をつけてどうするの?同等の付き合いをしていけばいいと思う」
 と、喚いてやった。
 正論だし、牢名主――刑務所じゃないんですよ(笑)――のワシャが言っているので、大多数が賛意を示した。
 それで、わがフロアは、年齢に関係ないフランクな付き合いを原則とすることになった。

 とくにコアとなる仲間を紹介しよう。
【パセ(リ)くん】
この人は、ワシャの読書会仲間のパセリくんの友だちで、研修に来る前から、パセリくんを通じて知っていた。だからワルシャワグループの副官のような位置付けである。温厚で調整能力が高いので、猪突猛進で獰猛なワシャを上手にフォローしてくれる。
【親分】
 こてこての関西人で、風貌が横山のやっさんに似ている。だから「親分」と命名した。しかし、親分、なかなかの切れ者で、研修中は人が変わったように理路整然と意見を言う。でも、酒を飲むとハチャメチャになるので楽しい。
【若頭】
 岐阜の人。今時めずらしいオールバックのリーゼントヘア。体格もいい。ちょっと見は恐そうだが、人はよさそう。親分と並ぶと迫力がある。
【リーダー】
 九州の人。機敏に動くタイプで、ワシャがフロアリーダーに指名すると、即答で「いいですよ」と言った気風をもっている。「でも、ワルシャワさんが、影のフィクサーでお願いしますよ」と言うことになった。

 このあたりを中心に毎晩、立川を闊歩しているのだった。めでたしめでたし。