立川まで(1日目)つづき

 それにしてもワシャはなんと心の狭い男だろう。

 ワシャは3人掛けの優先席の右端に座っている。左端は70がらみの爺ちゃんだ。ワシャの右は出入口で、そこに二十歳そこそこのネーチャンが立っている。イヤホンをつけて音楽を聴いているのだが、そこからシャカシャカシャカシャカ……音が漏れてくる。腰のせいもあってイライラする。
「音、漏れてまっせ」
 と、怖い顔で言ってやろうかと思ったら、吉祥寺で降りてしまった。あ〜よかった。

 その吉祥寺で女二人連れが乗車してきた。小太りの母親(年齢不詳)と痩身の娘(15歳くらいかなぁ)という雰囲気か。母親はワシャの左の隙間に娘を座らせた。対面のシートも真ん中が空いており、そのことを娘に指摘されると、母親はこう言って笑った。
「母さん、ちょっと太っているから入らないから」

 三鷹で爺ちゃんが降りた。その席に母親は座る。母親はしきりに娘に話しかけている。
 そのうちに娘がうつらうつらし始めて、窓に後頭部を打ちつけた。
「痛いでしょ、気をつけてね」
 と、母親。
 また、しばらくすると「ゴン」という音がする。
「痛いでしょ、気をつけてね」
 娘はかなり眠そうだ。

 そして、次の「ゴン」である。
なんと次の「ゴン」はワシャの左肩に来た。いつもならいいですよ。でも、今日は腰に障害を持っている。左肩から入った振動が椎間板にダイレクトに伝わったからたまらない。
「ギョエー!」
 ワシャはみっともなくも声を上げてしまった。
 母親はその声に驚き、ワシャにわびを入れる。ワシャは腰が痛いのでついついぶっきらぼうに「いいですよ!」と言ってしまった。
 その親子は、次の駅でそそくさと降りていった。もう少しやさしく「いいですよ〜♪」と言ってあげればよかったかなぁ。
 そんな反省をしていたら立川駅に着いたのだった。めでたしめでたし。