某所で講演

 一昨日、関連会社の新任係長の研修で一席ぶった。一席といっても2時間である。2時間の喋りっぱなしはなかなかきつい。終わってみれば、涼しい部屋にも関わらず汗びっしょりになっていた。とくにワシャの講演は、パワーポイント、OHC、ホワイトボードなどを駆使して、舞台を独楽鼠のように動き回る。運動量は相当のものだ。テーブルも2脚用意してもらって、そこに資料やら書籍やらメモやらを広げる。
 演題は指定されている。でも面白くもない題なので、そんなものは端から無視して、好きなことを話した。

 まず、取っ掛かりは、陸前高田市と大船渡市の津波被害の話である。「講談師、見てきたような嘘をつき」ではない。実際に見てきたことだから臨場感がある。つかみはOK。
 研修生に三陸の被害が充分に伝わったことを確認して、話題を「東海・東南海・南海地震」に持っていく。日本地図をホワイトボードに映し出して、そこにプレート境界を書き込んで、どのあたりで地震が発生し、どこに津波が殺到するのかを解説する。
 また、河田惠昭『津波被害』(岩波新書)から、大阪湾の津波の話を引く。淀川河口部付近での津波の高さ、流速などを告げ、それが三河湾でも起きる可能性に言及して、ちょいとビビらせる。
 話は、突然、悪魔の物質「DHMO」ジヒドロゲンモノキサイドに移る。
(詳しくはこちらを見てね)
http://www.komazawa-u.ac.jp/~kazov/Nis/etc/DHMO.html
「えー、この中でDHMOに関する情報について知っている人?」
 と挙手をさせ、知らない人が多ければ、手元に「DHMO」について書かれた文書を配布して読み上げる。たっぷりと脅した後に「DHMO」の正体を明かす。これで10分は稼げる。

「DHMO」の次にパワーポイントの画面には「メディアリテラシー」が現れる。
 厚生労働省の不正郵便事件で大阪地検に逮捕された村木厚子局長と、フロッピー前田をネタにしてメディアのいい加減さについて一くさり話す。大元のネタ本は、日垣隆『情報の「目利き」になる!』(ちくま新書)である。この本をOHCで示しながら「メディアリテラシー」の必要性を説く。
 ちなみにOHCで本を映し出したり、ネタとなる本を講演台にずらりと並べておく方法は「日垣流」と呼ばれる手法で――ワシャが勝手にそう呼んでいるのですが――最近、よくこの手法を使わせてもらっている。
メディアリテラシー」の次に画面に登場するのが「環境リテラシー」で、そこにはアル・ゴア氏に登場してもらっている。もちろんOHCでは『不都合な真実』を映し出す。
 アル・ゴアの父親がアメリカの原子力関連会社の重役だったことに触れながら、温暖化=CO2の疑わしい点をいくつか指摘する。そしてその流れで中部大学の武田邦彦教授の話に触れる。
 彼が環境問題で発していた警告は、温暖化=CO2説を唱える多数派にずいぶん叩かれたものだ。今回の福島第1原発の事故でも、早い段階からその危険性を指摘していた。しかし、当初は多数派の原子力発電推進派の学者にやはり叩かれたが、実は武田教授の言うことが正しく、原子力村の学者や国が嘘つきだったことが白日の下に晒されたのだった、というようなことを並べて談じる。
 
「環境リテラシー」の話から、エネルギー問題へと話を継いでいく。ここでは東京大学名誉教授の石井吉徳さんに登場してもらう。「オイルピーク」「コールピーク」など、グラフを使って説明する。ここはほとんど石井先生の受け売りだ。
 その後、「たかじんのそこまで言って委員会」にも登場した「メタンハイドレード」「風力」「太陽光」などの新エネルギーと称されるものがEPR(エネルギー収支比率)の関係から、あっても無駄であることを喋る。
 三河では「たかじん」の視聴率がいいので、けっこう研修生の中からリアクションがあった。
 その後、「地域を活性化するには」という泥くさいテーマに移り、「観光」「環境」「環状鉄道」などの手法について、具体例を挙げながら話をする。「環状鉄道」などはまったくの夢物語で、この地域を走る名古屋鉄道環状線にすると、その内側が山手線の内側とほぼ同面積で、首都移転の話があれば、ここへ首都を持ってきたらどうだろう、というような話は荒唐無稽だけれどけっこう受けましたぞ。

 まとめとしては、新任係長たちに以下の言葉を示した。
「現地、現場に入って現物、現実を見ろ(被災地の話)」
「真実を見極める知識を蓄えろ(リテラシーの話)」
 そのためには、まず「本を読め」と言っておいた。
 講演台に30冊ほどの本がのっている。そのどの本にも付箋がびっしりとついている。2時間の話のネタはすべてこの中にあると伝えた。(実はそればかりではないのだが)
 中には、一生懸命に本のタイトルをメモっている研修生もいた。こいつは将来頭角を現してくるだろう。

 終了後、さすがに疲れた。だから、仲間を誘ってビールを飲みに行ったのだった。めでたしめでたし。