白鳥の湖(Le lec des cygnes)

 たまたま「白鳥の湖」を見る機会に恵まれた。脚本ベギチェフ、ゲルツァー、作曲チャイコフスキー、1877年にロシアボリショイ劇場で初演されたものである。
 物語は、ジークフリード王子の成人の式典から始まる(一幕)。華やかなパーティーが宮殿の庭で繰り広げられるのだが、式に退屈した王子は城を抜け出して湖に遊びに行く(二幕)。そこで白鳥の姿に変えられたオデット姫に出会う。そこでオデットと姫のおつきの娘たちが悪魔の魔法で白鳥に変えられてしまったという身の上を聴く。ゾウアザラシでなくてよかった。
 魔法を解く方法は、女王や貴族の前でオデットへの愛を誓うことなんだそうな。もちろん王子は姫の美しさにクラクラしているから一も二もなく「OK」しますわな。それで女王に頼んで、花嫁のお披露目パーティーを開催する運びとなる(三幕)。
 パーティー会場には王子との事前打ち合わせどおりオデットがやってくる。おや、オデットがオデットらしくないぞ。オデットが黒いチュチュを身に着けている。オデットは白のはずだ。この黒鳥は、悪魔の娘のオディールがオデットに化けておでっとるんだった(苦しい)。
 間違えて悪魔の娘に愛を誓ってしまった王子はどんくさいやつだが、それでも湖(四幕)で悪魔と戦って勝利をおさめ、めでたくオデット姫と結ばれるのであった。めでたしめでたしという話。
 民話のモチーフの一つである「白鳥処女伝説」などの類型と考えられる。天から処女が地上に降り立つ。羽の衣をぬぐと人間になって地上の男の妻になり、やがてまた羽の衣をまとって飛び去っていくというもの。日本民話の「羽衣」や「鶴の恩返し」も、この「白鳥処女伝説」のカテゴリーに入っている。「白鳥の湖」と「羽衣」では、物語の趣が少し違っているようにも感じるが、原作の「奪われたベール」(ドイツの作家ムゼウスの作)を読めば、「羽衣」とまったく同種の話であることが理解できる。

 難しい話はさておいて、それにしてもバレエがこれほど面白かったとは……。いやー、目から鱗でした。白鳥たちの群舞もいい。オデットとジークフリートのペアダンスも美しい。そしてなんといっても気に入ったのが、悪魔のロットバルトである。雰囲気としてはデーモン小暮閣下なのだが、彼がこの舞台に「悪」のスパイスをかけることで感動的なドラマに仕上がっている。
 ううむ、「眠れる森の美女」や「くるみ割り人形」が観たくなりましたぞ。