怒りの仏たち その2

(上から続く)
 その後、新薬師寺にも足を運ぶ。やはりここにも怒りの仏たちが居並んでいる。薬師如来を守護する十二神将たちの怒りは凄まじい。とくに伐折羅(ばざら)大将の怒りは怒髪天をつき、両眼は飛び出さんほどだ。何か邪悪なものにむかって「喝!」と咆哮している。これほどまで怒らなければ衆の煩悩は祓えないのか。
 そして最後に訪れたのが、白毫寺である。花の名所で有名なこの寺は、閻魔様を祭っていることでも知られている。境内一面に植えられた椿はつぼみをつけていた。これが年明けから少しずつ開花し、3月には見ごろになるのだろう。
 おっと、庭を鑑賞している場合ではなかった。閻魔様だった。本堂にあるのかいな、と思って本堂に上がったのだがいませんぞ。本堂裏の収蔵庫を外から眺めても菩薩が見えるばかりで、閻魔のえの字も書いていない。案内をしてくれた人も「おかしいな、展示していないのかなぁ」と首をひねっている。とりあえず寺の人に確認をしてくれるということで、ワシャは収蔵庫を拝見しようと靴を脱いで中に入った。正面に鎮座するのは文殊菩薩様、厳かな気持ちで手を合わせようとすると左右から鋭い視線を感じる。
「誰やねん、ワシャにめんたんを切るやつは」
※因みに「めんたんを切る」とはチンピラの用語で喧嘩を売るために睨みつけること。
 喧嘩は舐められたらあきまへん。最初が肝心なので鋭い眼差しでその視線の方向を睨んでやったのじゃ。
「ひええええ」
 ワシャは思わず悲鳴を上げてしまった。そこには閻魔大王が鎮座し、物すごい形相でワシャを睨んでいる。ワシャ程度の人間がどれだけ凄もうとも簡単に跳ね返されてしまう威厳をもった閻魔様だった。
 しっかりとお賽銭を入れて「またそのせつはよろしくお願いします」と手を合わせたのだった。めでたしめでたし。