朝日新聞の愚 その1

 朝日新聞社会面の「ウオッチ沖縄」がばかばかしい。大城立裕『琉球処分』(講談社)にからめて、1879年の琉球藩を廃して沖縄県を置くとしたいわゆる「琉球処分」の王国解体が現在と重なると言っている。
 記事を要約する。

1、菅首相が『琉球処分』という本を読んでいると発言したおかげで絶版だった小説『琉球処分』が文庫化され沖縄で多く売れている。
2、小説には現在に重なる描写がいくつも出てくる。琉球重臣が「いくさの準備をすれば、いくさが寄ってきますよ」と軍の配備を危ぶんだ。
3、大城立裕は「日本政府の沖縄への差別意識は、今も変わっていない」「沖縄民衆のメンタリティーは成長した。本土にこんなにはっきりとものを言う時代は初めてだ」と言う。
4、『琉球処分』はこんな文章で締めくくられている。《“歴史を変えることはできない”といま言ってしまってはいけないのだ》

 と、まあこんな記事ですわ。詳細は新聞を読んでいただければと思います。でね、このバカ記事にいくつかツッコミを入れたい。
 まず、「1」である。この部分で「講談社談」としてこう書く。
《全国の人口の1%の沖縄が、この本の売り上げの17%を占める。「極めて異例」だという。》
 バカを言うな。もともと『琉球処分』などという本は地域本に近いものがあるじゃないか。極論に近いので笑ってもらって差し支えないが、『名古屋市史』や『名古屋城開府四百年史』といった本が地元と地元以外で売り上げに差があるのは当然だろう。いかにもその数値の差に深い意味が含まれているようなもったいをつけた書き方をするなよ。
 そして「2」である。この記者は「現在に重なる描写がいくつも出てくる」って、この記者はアホか。現代の小説家が現在の特定の思想を踏まえて小説を書いているんだ。現在と重なるのは当然だろうし、重ならなきゃ小説として成立しまい。『琉球処分』は150年前の時代設定を使って現代を描いているのだ。古文書や古記録と混同してどうする。
 ついでに「2」に出てくる重臣のセリフには根本的な誤りが潜んでいる。
「いくさの準備をすれば、いくさが寄ってきますよ」
 嘘だ。重武装をしていたスイスがナチスドイツに蹂躙されたか?いくさの準備をなにもしていなかったルクセンブルクヒトラーは避けて通ってくれたか?
 小説に嘘を書くな。
(下に続く)