胡散臭い人 その2

(上から続く)
 平林都の新人研修の様子も放映されていたが、ちょっとしたミスに形相を変えて罵声を浴びせかける。
「なにやっとんじゃ、ぼけー、指はそろえろと言っとるだろうか、真剣にやらんかい」
 言い方は少し違ったかもしれないが、聴いている限りこんな印象だった。そして指導が終わると、満面に笑みを浮かべて「それではやってみましょうね」と優しい先生に戻る。これがこの人のやり方らしい。
 見世物だね。講師としての自分を売らんがためのパフォーマンスと見た。この病院に勤務する医者、看護婦、事務員などのストレスはただならぬものがある。その証拠に平林都が登場して以来、医師の数が減っている。病院の業績が上がっているならば、医師の給与も保証できるわけで、とすれば辞める必要はないのだが、このトンデモ講師についていけない普通の感覚の人々がこの病院を去っているのだ。医師だけでなく、看護婦、事務員の離職率も高いはずである。絶対にこのやり方は、病院側に強ストレスを与える。「お客様は神様、お金をもらう方は奴隷」ではないのである。

 誰かが言っていたが、平林講師のような存在は、「モンスター・カスタマー」「モンスター・ペアレント」「クレーマー」を付けあがらせるだけだと。
 ワシャもそう思う。ここまで病院関係者を追い込む極端なやり方をとらなくても、ごく普通の思いやりがあればそれで充分だと思う。患者を「様」付けにする必要もない。
「田中さん」「山田さん」「伊藤さん」でいい。ひざまずいて接客などしてもらいたくもない。

 それにしても怖かったのが、平林都が新人を怒鳴りつけている姿だ。これを見て大東亜戦争当時に、娘の髪に小さなリボンを付けた母親を吊し上げる国防婦人会のオバサンを思い出した。
「あーた、それでも日本国民なの!戦場では兵隊さんたちが必死に戦っているのに、こんな髪飾りを付けて、贅沢は敵です。この非国民!!」
 接遇にも限度というものがある。お客を尊重することは大切なことだが、接遇する方だって人間だ。そのことを忘れている。どう考えても極端に走っているぞ平林都。
 ワシャは「贅沢は敵だ!」と罵声を浴びせるオバサンより、ぺろっと舌を出して「贅沢は素敵だ」というオバサンの方が好きである。
 ミスの指摘なら誰でもできる。鬼のような形相で叱りつけなくても理解できる。客に対して絶対服従を強いるこのやり方は、いい方法とは言えない。