野寺本證寺(のでらほんしょうじ)

 三河桜井(現在は安城市)に野寺という字があり、そこに本證寺という古刹がある。創建は鎌倉時代といわれているので、由緒は古い。徳川家康のドラマや小説には、必ず出てくる浄土真宗の寺院である。
 室町時代の中ごろ、蓮如という希代のアジテーターによって三河は一大真宗王国の様相を呈していた。野寺本證寺、佐々木上宮寺、針崎勝鬘(しょうまん)寺を中心にして末寺200余寺を傘下に押さえる大勢力だ。
 これが駿河から戻ったばかりの若き家康と対立する。う〜ん、こういうのを対立というのだろうか。法灯を守るべく城郭のような伽藍に立て篭もって家康に反抗した武士のほとんどは家康の家臣だった。家康にすれば己の刀で己の肉体を傷つけているような思いだったに違いない。

 昨日、ワシャはその本證寺で登山をしていた。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、ワシャ的には登山に近いものがあった。本證寺は寺と言いつつも「城郭伽藍」といって中世の平城に近い建築様式を持っている。もちろんその周囲にも土塁や堀を廻らして外からの攻撃に備えた縄張りをしている。
 最初、「本證寺に行く」と言われたので、京都の東寺を散策するつもりくらいの気持ちで出かけたのだが、とんでもなかった。寺の北側に広がる遺跡は、土塁切り立ち、堀深く、そこに400年の歳月で樹木が生い茂っていた。ジャングルのような遺跡を革靴でうろつきましたがな。
 それにしても、これほどしっかりと室町時代に造られたであろう土塁や堀が残っているとは……。

 あらためて、歴史というものは連々と現代までつながっているものなんだと認識しましたぞ。