バレンタインデーなので

信濃なる 千曲の川の 細石(さざれし)も 君し踏みてば 玉と拾はむ」
 万葉集の相聞歌である。歌意は、「信濃千曲川の小石でも、あなたがお踏みになったなら、玉と思って拾いましょう」というようなところだろう。
 男が詠んだのか、女が詠んだのかは判らない。でも、ワシャが男なので、詠み人は男だと思っている。詠み人には心を寄せる可憐な女性がいて、その人と千曲の河原で水遊びをしているんだ。彼女は白く細い素足を流れにひたして涼をとっている。男は彼女の笑顔を見ているだけで楽しい。彼女が遠ざかった後、彼女が踏んだ汀に小さな白い石が光っている。何の変哲もない白い小石だったが、拾い上げ、掌にのせて、ころころと転がして眺めていると、その石が掛け替えのない宝物になってしまう……というような情景でしょうか。
 斎藤茂吉は、この歌の一つ前の「信濃路は今の墾道刈株(はりみちかりばね)に足ふましなむ履(くつ)はけ吾背(わがせ)」の方が気に入っていて、『万葉秀歌』(岩波新書)にも撰んでいる。でも、ワシャは「信濃なる……」の方が断然いいと思う。

 世間はバレンタインデー、小さな贈り物が男女の間を行き来するんでしょうね。それがあるいは汀の玉になったりすることもある。上記の相聞歌が歌われたのが和銅6年(713)頃だといわれいるから、ざっと1300年も前のことだ。歴史は流れ時代が移ろっても「恋心」というものは古代からまったく変わっていないんですな。想う人がくれた小さな贈り物を大切に思う気持ちは今も昔も同じでゲス。
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