新宿の風に吹かれる

 新宿歌舞伎町は元々江戸の版図の外にあった。青梅街道の北に広がる西大久保村の畑地で、そこが終戦後、区画整理されて歌舞伎町と名を改める。由来は、この地に歌舞伎の演舞場建設を目論み、その周囲に芸能施設を集積して一大芸能エリアをつくろうというわけだ。しかし演舞場は来なかった。そして名前だけが残って今に到る。
 新宿駅前の「橙屋」で飲んでいるときに、何の脈絡もなしに、先日の「たかじんのそこまで言って委員会」で評論家の三宅久之さんが「私は歌舞伎町なんて行きません!」と言っていたのを思い出した。軽く飲んだ後で、コラムニストの勝谷誠彦さんが経営に参画している「東京麺通団」で讃岐うどんを食うつもりだったので、それならば、久しぶりに歌舞伎町を流してから、そっちゃへ行くべいということになった。
「橙屋」を出て、駅前広場を抜け、スタジオアルタ横を通る。セントラルロードをコマ劇場まで行って、そこを左回りに回りこむ。何年か前に歌舞伎町に来た時には、ちょうどこの付近で「路上SMショー」をやっていて黒山の人だかり、「ああ、やっぱり帝都は田舎とは違うっぺぇ」と思ったものだった。
 しかし、今回はいやに静かだ。人が少ない。ここは日本一の不夜城ではないのか。歩いていても人と接触しない。人と人の間を風が抜けていく。印象から言うと、北陸辺りの県庁所在地の繁華街という雰囲気だった。景気悪いのかなぁ……これもひとえに辞めゆく小泉さんのお蔭なんだね。
 風通しのよい歌舞伎町をしばらくそぞろ歩く。新宿大ガードをくぐって西新宿に出た。小滝橋通りを北に行って、お目当ての「東京麺通団
http://www.mentsu-dan.com/shop/shop_tokyo.html
に立ち寄る。もちろん勝谷さんはいないけどね。釜揚げを食って店を出て、西新宿を夜の散策、最終的には「しょんべん横丁」の三角形の小さな店に落ち着いた。そこのカウンターでしばらく飲んでいると突然停電するではあ〜りませんか。いやー、街路灯の明りだけで飲むビールもなかなか乙なものですぞ。さすが「しょんべん横丁」だ。ここはいつ来ても面白い!いろんなことが起きる!
 新宿の夜は楽しいまま更けてゆくのであった。めでたしめでたし。