達人

 池波正太郎の『剣客商売』は何度読んでも面白いなぁ。それにしても主人公の秋山小兵衛の強さはいかばかりであろうか。
《浅田は、殺気にみちみちた両眼を白くむき出し、颯と太刀を上段に振りかぶった。
小兵衛が、ぬたりと笑った。》
「ぬたり」が効いていますな。このシーンで小兵衛は、右手に薪割り、左手に薪一本というこしらえで、太刀を構える刺客に対している。
《浅田は小兵衛との間合いをちぢめることができない。針のように細く光る小兵衛の眼光の恐ろしさに、どうしようもないのだ。》
《小兵衛の手から薪が飛んだ。》
《かわした浅田の面上へ、小兵衛の投げた薪割りが凄まじい音をたてて喰い込んだ。》
 さすが達人だ。太刀を構える大男に薪割りで勝ってしまった。

 昨日のことである。我社に薙刀なぎなた)で国体に出場した女剣士がいる。たまたまその女性がワシャの前を歩いていたので、いたずら心が起きた。ちょっと驚かしてやろうと思い、背後からすーっと忍び寄った。
 ワシャは『剣客商売』(文春文庫)を全巻しているので、秋山小兵衛の弟子といってもいい。それにブルース・リーの『燃えよドラゴン』も30回見て少林寺憲法をマスターしている。その達人(ワシャのことね)がかげろうほどの気配も立てずに近づいた。
 しかし、彼女は三間(5.4m)の間合いを超えたところで、背後を振りかえって身構えたのであった。殺到して来たのがワシャであることを確認すると、表情を和ませて「なぁーんだ、ワシャさんか」と構えを解いたのである。う〜む、女剣士侮れず……お見事!

 もう一つ、昨夜、TBSの「うたばん」に北京五輪フェンシング銀メダリストの太田雄貴選手が登場してV6のメンバーとフェンシングの勝負をした。もちろん、素人のタレントが達人に勝てる道理がない。バタバタと突いてくるタレントを足すら動かさずにあしらっていた。
 さすがだ、現代の剣客。日々のたゆまぬ鍛錬こそが、名人達人を造ってゆく。毎日毎日、ぼやーっと生きているだけでは駄目だ。
 最後に、秋山小兵衛が弟子の弥七に剣の極意を説くシーンがあったので、そのシーンを紹介して今日の日記を締めようと思ったのだが、これが見つからない。すでに1時間半も『剣客商売』全15巻を1ページ1ページ紐解いている。でも見つからずイライラしているのじゃ。なんでワシャは早朝からこんなにストレスのたまることをやっているのだろうか。

 ということで締まらないままですいません。
 ということで、もやもやしながら行ってきます。