講演会終える

 昨日の講演会は定員200人のところに追加で椅子を出して、立ち見まで出ていたので300人くらいは入っていただろう。もちろん、お客さんはワシャの駄法螺を聴きに詰め掛けたわけではない。ワシャの前に登場する大学教授のありがたいお話を聴くために集まっているわけですけどね。
「先生の後を受けて話をするなど、横綱の後に幕下が相撲を取るようで気が引けますが……」と教授を持ち上げておいて話を始めた。時折、ギャグをかましながら、この地域の花、緑、樹木について一席ぶったのだった。
 講演自体はまあまあの出来だったが、公会堂のプロジェクターが古く、赤色がでないという情けないシロモノだった。途中で花の写真をふんだんに用意していたのだが、それらのスライドは真っ黒の花が咲くアバンギャルドなものになっていたのじゃ。
「黒いサルビアが咲いておりますが、これはイマジネーションの問題です。この花は黒くな〜い。これから皆さんが見る黒い花はみ〜んな赤〜い。黒いものが画面に出たら、それはあか〜い。だからこのサルビアはとってもあか〜い」
 ワシャは催眠術師か!
トラブルを笑いに替えながらなんとか講演を終えることができた。場数を踏んでいても六百のまなこに注視されてごらんなさいよ。妖怪の百目よりも数が多いんだから、これは疲れますぞ。
講演会がはねて、関係者に挨拶をして公会堂の玄関を出ようとしたところで、小柄な老婦人に呼びとめられた。
「あんたの話、面白かったよ。だいたいこの手の話は面白くないのが相場だけど、今日のはよかった」
 この一言で、肩がずいぶんと軽くなった。