神戸のスケール

 そうそう、神戸3日目の晩のことだった。阪急三宮駅南の商業ビルをうろついていて、ブックオフでしこたま本を買いこんだので、そろそろ宿に帰ろうと思い、三宮町2のバス停付近でタクシーを拾った。
「どちらまで?」
 と運転手がきくから、つい「元町駅」と言ってしまった。本当は「元町駅の北にある中山手通4丁目の宿舎」と言えばよかったのだが、つい「元町駅」と口走ってしまったのだ。
 運転手は顔を強張らせて言う。
「お客はん、からかってんのか。降りてんか」
 おっと神戸のタクシー運転手は乗車拒否をするんだね。面白いじゃないの、長距離しか乗せないというならこっちにも覚悟がありまっせ。
「やだもんね、降りないも〜ん」
 と、言ってやった。
「あんたねぇ、元町駅ってそこに見えてるやろ」
 運転手は、150mほど向こうに見える信号を指差して溜息を就く。
 えええ!あそこが元町駅なのか?目と鼻の先ではあ〜りませんか。イメージ的に三宮−元町を名古屋−金山(4km)くらいの感覚でとらえていたのだが、なんと駅間400mしかなかったのね。だから阪急三宮から西に商店街を歩いて、ワシャはあっという間に元町駅の手前まで来ていたのである。近い、近すぎる。

 言い訳に過ぎないが、司馬遼太郎がこんな風に神戸のことを書いている。
《神戸の町とは、意外に小さな町だということである。摂津や播磨の山川草木までホウガンしてしまった神戸市は、なるほど大神戸ではあるが、マチの部分は小さい。》
 そしてこう続ける。
《元町、三宮、センター街、大丸前、で、今日は、トア・ロードの坂をあるいている。(中略)私はそれらを一回に一ヵ所ずつ歩いたがために、それぞれ、ずいぶん離れた場所にあるものだと思っていた。ところが、ごく近い。ひとつのせまいブロックのなかにある。》
 でしょ。