書店員

 オリ・ブラフマン『ヒトデはクモよりなぜ強い』(日経BP)が欲しくなったので郊外の大型書店に行った。ワシャは基本的に駅前の老舗書店を覗くことが多い。小学校の頃は大きな書店だと思っていた。実際、市内の本屋の中では一番大きかったが、中学生になって名古屋や東京に出てみれば、そこが小さな町の本屋さんだということを実感させられたものだ。
 でも、その本屋さん、清潔で本が整えられており、長年通いなれた居心地のよさがあって、時間があれば立ち寄ることにしている。経営者のセンスがいいので、通い詰めてもいつも新たな発見があるから楽しい。
 この間も、雑誌を買いに行ったのだが、棚に『知っ得 古典文学動物誌』、『知っ得 古典文学植物誌』(學燈社)が並んでいたので思わず買ってしもうた。古典文学に出てくる動物125、植物211が網羅してあるんですな。例えば「馬(むま)」に関することが、『伊勢物語』の八二段、八三段、『枕草子』の二七八段などにあり、その他にも『うつほ物語』、『堤中納言物語』にこんなことが書いていある、というようなことが細かく示してある。なかなか優れものですぞ。
 ただその老舗、文学系には強いのだが、ビジネス系が手薄だ。だから『ヒトデはクモよりなぜ強い』は置いてなかった。だから、昨日の夜、車を走らせて郊外の大型書店に出掛けた。

 最初に行ったのは名古屋に本店のあるSという書店である。西三河随一の蔵書を誇るこの店は、新刊ならば必ず手に入るので足しげく通っている。また、岩波文庫のラインナップも充実しているのでありがたい。そしてビジネス書関係は、周辺にトヨタ系企業が多いので豊富に揃っている。
 ワシャは真っ直ぐ書籍検索用の端末に行って「ヒトデ」と入力して検索をかけた。「ヒトデ」の文字を含む書籍の題名が示され、その中に『ヒトデはクモよりなぜ強い』があって、その頭に二重丸がつけてある。在庫有りだ。案内票(署名、著者、出版社、本のあるフロア区分、棚番号などが記載されたもの)を打ち出すと、ビジネス書のフロアに急いだ。そして、長年、本屋・古本屋・ブックオフで鍛えたワシャの検索眼で本を探したが、本を見つけることはできなかった。ワシャはすぐに書店員のところに走って「本がない」ことを告げると、小太りの女性書店員は、案内票をしげしげと見つめて、重そうに動き出した。
 その書店員、あらぬ方向に向かう。「え?『ヒトデはクモよりなぜ強い』はビジネス書だよね。署名は生物学みたいだけど……」
 ビジネス書の棚からどんどん離れていくワシャの運命やいかに。