まだ市ヶ谷散歩

 外苑東通りを北に向かっている。この一帯はかつて信長や秀吉を苦しめた根来(ねごろ)鉄砲衆が住していたが、今はその面影もない。早稲田通りとの交差点に出る手前で左に折れる小路がある。そこをちょいと上ると小さな公園があって、そこが夏目漱石終焉の地(夏目公園)なのだ。早稲田南町7番地、ここで漱石は晩年を過ごしたのか……と、感慨にふけるつもりだったが、リニューアル工事中だった。かつての面影もクソもない。再び妄想力を駆使して、明治村で見た「夏目漱石住宅」のイメージを公園にオーバーラップさせましたがな。
「長い縁側があって、その向こうに座敷が三つ、棟の一番東は一間半ほど張り出して小座敷になっている。ここで漱石、猫と戯れていたんだね」
 とは言っても、明治村にあるのは文京区千駄木の旧居で、早稲田南町のこの場所にあった建物とは違っている。二日酔いの頭を酷使して工事現場に縁のないものをオーバーラップしていても疲れるばかりなので、すぐに次の行動に移った。
 読書会で一緒だったHさんに「早稲田駅前のブックオフで単行本500円均一やってますよ」と聞いていたので、いそいそとそっちへ向かう。
 お蔭で帰り道はヘビー級のキャスターバッグになってしもうたわい。(おしまい)