9月15日(土)午前5時
東京に出発する前のワシャ家のことである。嫁は昨日、台湾に行ってしもうた。ガキンチョどもは全国に散らばっている。だから、家の中はワシャ一人で閑散としているのじゃ。
新幹線は8時47分発、時間はまだ充分にあるので、さっぱりしてから上京をしようと思い立って、風呂を沸かした。朝日の射しこむ湯船でゆっくりと本を読むべし。風呂には『福翁自伝』を持ちこんだ。読んでいたら面白いフレーズを見つけたので「これを今朝の日記に書こう」と思い立った。そそくさと風呂から上がると書斎(物置ともいう)にこもって日記を書きはじめたのである。
書いていて大切なことを思い出した。今回の読書会の課題図書の重要部分を抜き書きし、感想などを付け加えておいた文書がある。それをプリントアウトしておかなければいけない。危うく忘れるところじゃった。
ところが、印刷をしようにも、ワシャのプリンターが何故か言うことをきかない。
「でも、いいもんね、嫁のプリンターがあるもんね」
文書をUSBに吸い上げて、言うことをきかないワシャパソコンに後ろ足で砂をかけると、嫁の部屋に行って、嫁パソコンを立ち上げた。
ところが、嫁プリンターにはインクがなかった。これではプリントが出来ない。大あわてで家捜しをするのだが、人の部屋というものはどこに何があるのか皆目見当がつかない。15分ほどで諦め、次の手を模索した。
「そうだ、妹の家に行ってプリントしよう」
名案だった。妹夫婦がワシャ家から300mほどのところにあるのじゃ。駅へ行くついでにそこに寄って行けばいい。
時間はすでに8時を回っている。怒涛のごとく荷造りをすると、「お〜い、駅まで送ってくれ」と呼びかけるのだが、家の中はシンと静まり返っているではあ〜りませんか。
しまった、嫁は台湾だった。
ワシャは自転車の荷台にキャスターバッグを括りつけ、ショルダーバッグを背負って妹の家にむかって猛ダッシュしたのである。
もう汗だくだった。風呂へ入った意味はない。でも、そんなの関係ねぇ。妹の家に飛び込むと、プリンターに突進し、USBをぶちこんで、「印刷」をクリックし、ようやくプリントアウトができた。めでたしめでた……
めでたくないっ!
新幹線に乗ってから、バッグの中身を点検すると、『福翁自伝』がなかった。書庫の机の上に置いたままである。どうしようもなかった。
仕方がないので、東京駅を降りてから八重洲ブックセンターに寄って、もう1冊『福翁自伝』を買いましたがな。やれやれ。