市ケ谷散歩

 9月16日AM6:30
 あれだけ呑んでおいて言うのもなんだが、ワシャは酒が体質的に合わないんじゃないかと思っている。
 咽喉の渇きを覚えて目を醒ました時、これが酷い二日酔いで、頭は痛いし、目は回るし、吐き気はするし、なかなかベッドから起き上がれない。床に転がっていたスポーツ飲料をやっとの思いで拾い上げて水分を補給した。それにしても、ここはどこだ?部屋中がイヤに散らかっている。そこいらじゅうに衣服が散らばり、口の開いたキャスターバッグからは荷物がはみ出していた。テーブルには小銭、筆記用具、椅子の上にはメガホンや本が乱雑に積んであり、テレビは点けっぱなしだ。小さな部屋をぐるりと見回して、ようやく自分が市谷のビジネスホテルにいることを理解した。
 それにしてもこのホテルは最低だ。通常、照明や空調のスイッチは手元に設置してあるものなのだが、それが足下の方にあるので手が届かない。一々起きあがらねば温度調節がままならないのだ。それに枕が用意されていない。枕のないホテルなど聞いたことがないわい。
 おや、何だ?足先に当たるこのふわふわした物体は……物体Xか?
 そんなことはどうでもいい。問題は三次会の早稲田の居酒屋から記憶がないことだ。何も覚えていない。どうやってここまで辿りついたんだろう。朦朧とする脳裏には東京タワー、「どんだけー!」と叫ぶIKKOの姿、宙を舞う札びら、ブルーシートのテント村などの景色がこびりついている。
 もしかしたら三次会の後、東京タワーでも見に行ったんだろうか、六本木に廻ってオカマバーにでも寄ったかもしれない。あるいは銀座のナイトクラブで金をばら撒いていたってことはないだろうが、新宿でホームレスのオジさんと意気投合しワンカップを呑んでいたかもしれない。ワシャには午後10時から今朝までのアリバイがないのじゃ。
 ぼんやりしている頭でそんなことを考えていたが、そんなこともどうでもよくなったのでもう一眠りすることにした。ワシャは物体Xを枕代わりにして再び夢の世界に戻ったのだった。

 ぐわっ!
 再び眼を醒ますと、おおお、9時40分を回っている。チェックアウトが10時だったので、大あわてでシャワーを浴びて、身支度を整え、荷物をキャスターバッグに押し込んで、なんとか10時にホテルを出たのだった。あーひやひやした。(つづく)