講演会

 昨日、地元企業の社長連の集まりがあった。そこで地震の話をしてくれないかという依頼があって、地震雷火事台風が趣味のワシャはのこのこと出かけたのじゃ。会場に入ったのは午前12時00分、80人くらいの団体だと聞いていたので、小さな会議室を予想していたのだが、舞台つきの立派なセレモニーホールだった。そこに地元のお歴々が居並んでいる。う〜む、これは少しプレッシャーだわい。
 講演は、社長さんたちの会食会が終わった午後1時に始まった。講演の時間帯としては一番まずい頃だ。腹がふくれればまぶたが重くなる。ま、そんなことは想定内だったので、パワーポイントを使って正面スクリーンに、関東大震災の本所被服廠の「累々と重なった死体の写真」をドーンと大写しにして目を覚ましてもらいましょうか。基本的にワシャの話をしている間は誰も寝かさないのである。そして62年前に愛知県の三河地方を襲った「三河地震」の話に言及した。
「もちろん私(講演の時にはさすがにワシャとは言えまへんで)は若僧ですから三河地震を体験していません。しかし皆さんの中には三河地震の体験者も何人かいらっしゃるでしょう」
 と、水をむけると、何人かの高齢社長さんから「知ってる知ってる」とか「あれは恐かった」という反応が出た。
「なかなか震度6以上の地震は体験できるものではありません。地震担当者としてはうらやましい限りです」
 と、ほんの少量だけ毒を込めて発言した。そうしたら一人の社長が「うらやましいとは失礼な!」と声を挙げてくれた。その反応に会場がどよめく。これで「つかみ」は充分だ。社長さんたちは、「このスピーカーは何を言い出すかわからないぞ」という認識をしてくれたはずである。あとは数分に1枚、刺激的な写真か言葉を挟んでおけばいい。
 最終兵器は「尼崎列車脱線事故」の現場の写真である。「日本スピンドル」という事故現場の最寄の会社が事故直後に現場に入って救助活動をしている写真を何枚か見せた。
「日本スピンドルの社長は迅速な判断をして全従業員を事故現場に投入しました。このことでどれだけ多くの人が救われたかわかりません。ぜひ皆さんも社会奉仕という観点に立っていただき、来たる大地震の際は会社をあげて被災者のためにご尽力ください」
 講演会が終了した時に寝ている社長さんはいませんでしたぞ。めでたしめでたし。