久々の横溝正史

 NHKBSが金田一耕助シリーズということで『犬神家の一族』、『悪魔の手毬唄』、『獄門島』、『女王蜂』、『病院坂の首縊りの家』の5作品を一挙に放映した。懐かしかったのでついつい観てしまいましたぞ。
 これらの作品は1976年から4年間の間に制作された。金田一役の石坂浩二や等々力警部役の加藤武などレギュラーキャラクターは言うに及ばず、毎回違う役で草笛光子大滝秀治三木のり平白石加代子などの芸達者が顔を出している。これもこのシリーズの楽しみなんですね。

 横溝さんは「これでもか!」と言うほどのえげつない殺害方法を好む。例えば、池に逆さになって足を突き出している死体とか、振袖美人の死体が梅の木に逆さ吊りになっていたりとか、男の生首が風鈴に見立ててぶら下げてあったりという具合である。当時は、おどろおどろしい横溝ワールドにショックを受けたものだったが、あれから30年の歳月がながれて、あらためて観てみると殺害方法が凝り過ぎで「そこまではやらないだろう」と思わず突っ込みを入れたくなったのじゃ。
 それでも、殺人者たちにはそれぞれ複雑な事情と深い情念があって、その結果として奇抜な殺人に至る。物語の終わりで金田一の「こうだったからこうなった」という説明を聴いて観客は等々力警部とともに納得する。
 ところがどうだ。今の鬼畜どもの殺人動機の薄弱なことったらないよね。
「子どもが目障りだったから川へ突き落とした」
「夫が鬱陶しいから切り刻んだ」
「女が言うことをきかないからベランダのバスタブに土を入れて埋めてやった」
 これじゃあドラマにならない(ドラマにならなくていいけど)。些細なことで人を殺すなよ。

 久々に横溝正史のおどろおどろしい世界に浸ってみたくなって、別棟にある書庫(物置ともいう)に半日もぐりこんで12冊の横溝正史本を掘り出してきた。おおお、懐かしい。『八つ墓村』、『悪霊島』、『悪魔が来りて笛を吹く』、『悪魔の降誕祭』……いやぁ題名からして不気味ですぞ。
 今日は快晴だ。庭にビーチ用の折りたたみベッドを出して、青空の下で、早速、生首、磔、悪霊、惨劇……の世界に出かけることにする。