危なかった

 今日、御園座に「陽春花形歌舞伎」を観に行った。鶴屋南北作『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』面白かったですぞ。
 帰り道、JR名古屋駅で、ちょうど発車するところの豊橋行きの普通に間に合った。駆け込み乗車とまでは行かなかったが、ぎりぎりで乗ることができたのじゃ。各駅なので車内は空いている。空いているので2人掛けを独占させてもらって、おもむろに書類を取り出して仕事を始めた。来週早々に我社の重役の前で能登半島地震の調査報告をしなければいけない。そのための下準備である。確認する書類は5種類。20ページほどの報告書(案)、撮影してきた写真300枚の一覧、プレゼン用シナリオのラフ、ネットから集めた情報の束、それに3月26日以降の新聞記事の切り抜き、ワシャ、こんなものを大きな鞄に入れて持ち歩いている。よほどキャリーバッグにしようかとも思ったが、さすがに笑われるといけないので止めた。
 ううむ、どうして電車の中というのはこうも仕事が捗るんだろう。三色ボールペンでどんどん修正を入れていく。ふと気がつくと名古屋−尾頭橋−金山−熱田−笠寺−大高−共和−大府まで来ていた。「大府ね……」と横目でチラリと駅名看板を確認する。刈谷駅を過ぎたら、乗り過ごしてはいけないので気をつけなければ、と思っていたんですが、ついつい集中してしまった。ふと気がつけば、いつのまにか電車は降車駅に停まっているではあ〜りませんか。おまけに発車のベルも鳴っている。「こりゃいかん!」ワシャはシートに広げた書類を抱えこみ、鞄とジャケットを引っ掴むとドアに猛然と突進した。迫り来るドアをかいくぐりプラットホームに飛び降りた瞬間、ドアが「プシュー」と閉まった。少しの間、電車は発車しなかった。車掌さんが突然飛び出した「アホ」の安全確認をしているのだ。「アホ」は書類を抱えたまま着地した姿勢で動かない。絶対に動かない。業を煮やした車掌さんは塑像のように固まって動かない「アホ」を睨みながら電車を出発させたのだった。やれやれ。
 駆け込み乗車も危険ですが、駆け込み降車も危険です。よい子は真似をしてはいけません。あー、ひやひやした。