閑話休題2

《閉ざされたくもの中に陽が沈みかけ、荒涼とした海にわずかな色彩を投げていた。》
《その辺は岩と枯れた草地で、海は遥か下の方で怒涛を鳴らしていた。雲は垂れ下がり、灰青色の海は白い波頭を一めんに立ててうねっていた。陽のあるところだけ、鈍い光が溜まっていた。》
《陽は沈みきった。鈍重な雲は、いよいよ暗くなり、海原は急速に黒さを増した。潮騒が高まり、その上を風の音が渡った。》
能登半島を舞台にした松本清張の代表作『ゼロの焦点』で、主人公の禎子が夫の失踪の真相を探るべく赤住漁港あたりの断崖に立った時の海の描写である。季節は冬とはいえ実に暗い描写ですな。
 ワシャは春爛漫の能登半島に行ったので、地震被害は別として明るい能登半島を見ることが出来た。とくに赤住あたりは、今なにかと話題の「志賀原子力発電所」があったり「花のミュージアムフローリィ」があったりで、すっかり古錆びた漁村というイメージではなくなっている。『ゼロの焦点』も昭和30年代前半だったから書けたが、今なら明るすぎて作品にはならないだろう。
 今回は残念ながら災害現場の調査が主たる目的なので、作品の舞台となった赤住周辺の海岸や、映画『ゼロの焦点』のロケ地となったヤセの断崖に立ち寄ることはできなかった。でも能登の復興がなったら、また来ようと思っています。できれば冬にでも。