陽春花形歌舞伎

 いつもながら御園座は舐められている。演目は昼夜入れ替えなしの2つだけ、出演者は三津五郎橋之助菊之助、萬次郎、團蔵、彦三郎で、はい終り。例えば来月、歌舞伎座の「團菊祭五月大歌舞伎」のラインナップを見てごらんなさいよ。團十郎菊五郎芝翫梅玉左團次時蔵三津五郎(ここで三津五郎ですぞ)、彦三郎、田之助松緑海老蔵菊之助團蔵権十郎翫雀、萬次郎、友右衛門ときたもんだ。そして演目も、もちろん昼夜別で「勧進帳」「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」「女暫」など8つも並べている。さすが花のお江戸だ。充実してまんなぁ。くそっ、来月は上洛するぞおおお!
 そんなことはさて置いて、鶴屋南北作『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』である。鶴屋南北と言えば、ご存じ『四谷怪談』の作者であり、『盟三五大切』の物語も『四谷怪談』と同様に『忠臣蔵外伝』として成立をしている。
 ストーリーも『四谷怪談』と同様に凄惨をきわめる。二幕目第二場「五人切の場」では主人公の薩摩源五兵衛が民家に押し入り、その場にいたものを次から次へと殺害していく。首は飛び、腕は切られて血が流れ、闇の中で五人が斬殺される。また「大詰の四谷鬼横町の場」では、かつて民谷伊右衛門とお岩が住んでいた長屋に源五兵衛が現れて老女、幼子を手に掛けた上、芸者の小万の首を斬って懐に抱えると逃走するのだった。
 ね、これだけでも血まみれの話でしょ。この他にも大家が殺され、三五郎が自殺し、都合10人の人間が次々と死んでいく。さすが鶴屋南北ですな。歌舞伎の初心者にはあまりお薦めできない。
 それに「薩摩源五兵衛実は不破数右衛門」とか「芸者妲妃の小万実は民谷召使お六」とか人間関係が複雑に入り組んでいる。舞台上はAという役柄だが、実はBであり、登場人物Cの縁者であった。というような登場人物が6人出てくる。これは歌舞伎の特徴でもあるのだが、やっぱり初心者にはわかりづらいところだろう。

 もう一方の出し物『芋掘長者』は単純明快な物語で、舞台も明るく絢爛で、演者もコミカルな動きが多く、客席もずっと笑いっぱなしで、これは皆さん楽しめたんではないでしょうか。
 ストーリーは、長者の娘が婿を選ぶのに「舞上手」を条件にした。かねてより長者の娘に恋焦がれていた舞下手の芋掘り藤五郎は一計を案じ舞の宴に出席をする。下手糞がどう舞って姫の心を射止めるかが見所で、どたばた喜劇に仕上っている。欲を言えば、主人公の田舎者の藤五郎を勘三郎あたりが演じるともっと面白かったに違いない。