『拝啓、父上様』

 昨日、読書をしながら大笑いをして、かつ泣いてしもうた。久々の倉本作品『拝啓、父上様』(理論社)はやっぱり面白かったのじゃ。
 かつて倉本さんは『前略おふくろ様』というドラマを世に出している。もうあれから30年にもなるのか。『前略〜』の主人公は深川の料亭「分田上」の調理場につとめるサブ(萩原健一)という若者だった。今回の主人公は、神楽坂の料亭「坂下」の調理場で働く一平(二宮和也)である。どちらも20代の前半で、料亭を取り巻く小さなコミュニティの中でいろいろなトラブルに巻き込まれながらも、少しずつ成長していくという青春譚となっている。
 むろん30年の歳月を経ているので、二つのドラマは別の話なのだが、いろいろな部分でよく似ている。例えば大女将、若女将がいて、男の中の男という花板がどっちも梅宮辰夫で、いい人なんだが切れると手がつけられなくなる鳶がいて、主人公に惚れる娘が現れ……などなど配役が酷似しており、続編と言いきってもいいだろう。だから『前略おふくろ様』ファンには堪えられない仕上りとなっている。
 倉本さん、あとがきに書いておられる。
《この春、突然坐骨神経痛を病み、杖の助けを借りるようになった僕は、この坂の町を徘徊するのにこれまでと全く違う速度で歩くようになったのだが、するとこの町の情景が以前とおよそ違った景色に見えてきた。》
 昭和10年12月の生まれだから、72歳になられたんですね。でも文章は30年前と変わらず溌剌として、相変わらずお元気だ。『前略〜』が1年半都合50回続いた。『拝啓〜』が11回で終わるのは惜しい。是非、新装開店した「坂下」を見たいし、一平が、その後のどういう方向に進んだのかも知りたい。坐骨神経痛などに負けずに名作を量産して欲しいなぁ……