無残なり

 ワシャの目の前で嫁が笑い転げている。何がそんなに面白いかというと、床屋へ行き、パーマ&カットをしてもらったのだが、その結果、ワシャの髪形はとんでもないヘアスタイルになってしまったのじゃ。それを見て笑っているのである。

 その床屋はここ何年も通っているのだが、実はもう別の床屋に変えようと思っていた。パーマをかけても2週間もしないうちにウエーブが取れてくる。それも一部だけ取れてくるからどうにもおさまりが悪い。未だかつて「お、今日は決まったな」という時がない。十日もすると髪の毛がおさまらなくなって、必死にセットをする羽目に陥るのだった。おまけに髭の剃りも甘い。毎回、家に戻ってから剃り直している。要するに下手だ。
 次は代えよう、次は代えようと思いつつ、それでも気心が知れているので、ずるずるときてしまった。昨日もその朝まで他の床屋へ行こうと思っていたのだが、まぁ何も言わなくともそれなりに仕上げてくれるし、髭なんか自分で剃ればいいし、パーマのかかりが甘ければ指示すればいいと思い直して、やっぱりいつもの床屋に行くことにした。だから充分な下準備をしましたぞ。
「フロントはいつもより強めにパーマをかけてください。サイドとバックは長めにしておいてください。トップはボリュームを抑えてください。(全体の雰囲気を知らせるために、大きなウエーブのかかったセミロングの絵を描いて示しておいた)」と書いたメモを渡して「こうしてね」と念を押したのだった。
 2時間、うつらうつらしておった。背もたれが起こされたので、目を開けてびっくらこいた。チリチリパーマのオールバックで、セミロングどころか、襟足などまるっきり刈り上げたようになっているじゃないか。どこをどう解釈したら、オレのメモからこのヘアスタイルが出きるんじゃ!(怒りのあまり「ワシャ」と言わずに「オレ」と言ってしまったじゃないか)
 ペ・ヨンジュンみたいになるはずが、やしきたかじんになっちまった。

 床屋のマスターは、鏡に映るやしきたかじんを見てニコニコしている。烈火の如く怒ろうかとも思ったが、人のよさそうな顔を見ていると「諦観」の二文字が脳裏に浮かんだのだった。
 今度こそ店を変えてやる。