軍閥化 その1

 あるNPOの関係者からこんな話を聴いた。
 地元の自治体主催でNPOが中心となって行うイベントに消防署の協力を求めた。イベントに消防のコーナーを設けるので、救急救命などの指導をお願いしたい、と依頼したそうである。ところが件の消防署、NPOと思ってバカにしたのか、「事前に相談もなく、日程指定でイベントに出て来いとはなんたる無礼」とNPOの依頼を門前払いしてしまった。もちろんそんな本音は言わない。「スケジュールの調整が難しい」とか、もっともらしい御託をならべて断わったのだ。
 ワシャの住む地域では、複数の自治体がそれぞれの消防を合併して、広域消防を立ち上げている。その時点ではいずれ行政も後追いで合併する方針だったのが、リーダー格の首長が落選したために自治体の合併は立ち消えとなった。消防は二階に上げられた途端に梯子を外されてしまった。だから消防士の中には未だに消防合併を恨む声は多い。
 そのせいでもあるまいが、このところ消防の動きが悪いと評判になっている。元々、消火活動、救急活動以外に動きのいい組織ではなかったが、このところの横着さは目に余る状況だという。どうやら一市の消防から複数市の消防になったことで、地域からの離脱をはじめ、業務を消火、救急に特化しようという腹らしい。
 でもね、住民が「指導をしてください」と辞を低くして頼んできているのだよ。たとえスケジュールが詰まっていようと、それを調整して喜び勇んで協力するのが筋だろう。使命だろう。
 どことは言わないが、この消防機関の怠惰な体制には、実は理由がある。それは各消防署の軍閥化にあると情報通は指摘している。どういうことかと言うと、それまで一施設の長という位置付けでしかなかった消防署長というのが変質した。市消防であった頃、署長の上には消防長という事務方が坐り、その上には役所の人事部門、財政部門の部課長があり、そのまた上には助役、市長までが乗っかっていたのだ。だから人事一つをとっても幾つものチェックが働いた。これが市から離脱することで、署長の目の上の複数のたんこぶがきれいさっぱりと消えてしまった。市の外の団体だから市長も助役ももちろん部課長も何も言えなくなってしまったのである。
(下に続きます)