プロフェッショナル その1

 昨日、東海テレビで「草刈民代・バレエを通して生きること」という番組をやっていた。夫の周防監督がインタビュー、ナレーション、撮影を担当しており、人間草刈民代を実感するには、いい仕上りになっている。
 この中で、パリでのバレエ公演にむけ過酷な練習に励む草刈が、周防のインタビューに応えてこう言う。
「おどりって、簡単なものじゃないのよ」
 そう言って草刈は泣いた。そこには本物のプロがいた。

 1999年のプロ野球開幕直後、オリックスイチローは絶不調だった。イチローはその不調の要因を精密なコンピュータさながらに分析し、それがフォームの狂いから生じていることを突き止め修正を施し不調を克服した。そのときのことをインタビューに答えてこう言っている。
「上半身と下半身にポイントが一点ずつあるんですが、狂いを調整するためには下半身の使い方が重要なんですね。まあ、下半身の動きを具体的に言えば、右足の使い方と踏みこんでいく角度かな。この角度に狂いが生じてしまうと、球をしっかりと捉えたつもりでも凡打になってしまうんですよ」
 その狂いは数センチの違いか?というインタビュアーの質問に
「数センチまではいかないでしょうね。数ミリかもしれないです。もしかしたら数ミリもかわらないかもしれないし。見た目にはまったく同じフォームに見えても、微かな誤差が生じることがあるんです」
 と答えている。この極めてわずかな誤差を突き詰めていく鋭敏な感覚がプロだな。

 昭和25年のことである。木村名人と大山九段が第11期名人戦で死闘を繰り広げていた。大山が3勝1敗で迎えた第五局、先番の大山はヤグラの注文をつけ、名人もヤグラに構えての展開となった。63手目で大山は長考に入る。それも3時間9分にも及ぶ脳味噌が溶けて鼻から垂れるほどの大長考をした後に攻勢を開始し名人を破った。むむむ……この集中力はまさにプロフェッショナルだ。
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