幻を見る

 本を読みながらうつらうつらすることがある。あるいは会議中に資料を見ながらうとうとしたりする。そういった時にページから幻のようなものが浮かび上がってくることってないですか。

 今朝も『謡曲集(上)』(新潮日本古典集成)の「葵上(あおいのうえ)」を読んで朦朧としていると、19ページ上段の解説のところに、なんの脈絡もなく「膝撃ち姿勢をとる小太りの軍服姿の男」が浮かび上がってきた。

 なんで「葵上」を読んでいるかというと、実は、近々、三河西尾城跡で薪能があって、その曲目が「葵上」なのである。だから予習に励んでいたわけなんだけど、謡曲集なんてものは強力な睡眠薬のようなものですな。数行読みすすむと睡魔に襲われ瞼が下がってくる。不眠症でお悩みのかたは、是非、試されよ。
 
 実はワシャは能楽が好きである。とくに能舞台を見上げながら謡と囃子を子守唄にするのがいい。うつらうつらしながら舞台を見ていると、表情のないはずの能面が笑ったり泣いたり怒ったりしはじめるから面白いのじゃ。

 その能の中でも「葵上」はとくに好きな曲目である。「源氏物語」の「葵」をモチーフにした世阿弥の作で、舞台に敷かれた小袖を葵上に見たてての後妻打ち(うわなりうち)は見物ですぞ。うつらうつら(っていつも寝ているみたいですが)していると、その小袖が悶え苦しむ葵上に見えてくるから不思議だ。