日本が好きな外国人

 1865年、明治維新前夜の灰神楽が立つような日本に一人のドイツ人がやってきた。
 彼の名は、ハインリッヒ・シュリーマンという。世界史が好きな人、考古学に興味のある人にはお馴染みの名前である。「トロイの木馬」で有名なトロイア遺跡を発掘した人と言えばおわかりでしょ。
 その人が発掘の6年前に、花のお江戸においでになった。そこでシュリちゃん、始めて日本人なるものを見るわけだが、これが屈強の総入墨を施した船頭だったから驚いたのなんのって。でも、その後で普通の日本人に出会って、そのレベルの高さに舌を巻いている。例えばシュリーマンが日本の入国管理の官吏にチップを渡すのだが、官吏は「我々は日本男児である」と言って、チップを受け取らなかったことを記している。そして「たいへん好意的で親切な応対だった。」という。またシュリーマンは、「日本人が世界でいちばん清潔な国民であることは異論の余地がない。」と言いきっている。世界を知っているシュリーマンが断言しているのだから間違いないだろうね。それにこうも言っている。《どの家(商家)も一階が道に向かって開け放たれ店舗になっていて、奥の方に矮小な木で飾られた小さな花壇が見えた。》
 ラフカディオ・ハーン小泉八雲)は著書『東の国から』の冒頭で、日本の宿屋の清潔さ清々しさを絶賛している。
《ひんやりとした、当りのやわらかい畳の上にどっかりとあぐらをかき、すずしい声をした女中たちにかしずかれ、きれいなものに身のまわりをとりまかれながら、ゆっくりと腰をのばしたときには、まずこれは、十九世紀のあらゆる心労から、ほっと救われたような思いがした。》
 実はまだまだ他の外国人の類例もあるのだけれど、どちらにしても日本という土地の上に住む人々は、両先生が言われるように元々とても清潔好きだったのである。こればっかりは貴賎に関係ない。貧乏人だって「清貧」という言葉があったくらいだ。東京の下町に花が飾られ、水が打たれていたのはついこの間のことでっせ。まだまだよき日本は取り戻せる。