平成の誇り

 手元に一冊の本がある。実は手元にも足元にも本は山ほど散乱しているのだが、とりあえず左手の三寸先に吉田茂『激動の百年史』白川書院が置いてあるのじゃ。
 その中にこんな一節がある。
《戦後の日本人は、敗戦と占領という状況に直面したとき、ずる賢く占領軍を迎えるのではなく、占領軍の支持した大変革に対して男らしい態度をとり、言うべきことは言ったあとで、改革を行い、その改革のなかに日本を再建する方法を見いだそうとした。》
《攘夷に失敗して、西欧諸国の力を知った武士たちが、あっさりと開国に踏み切ったように、戦争に敗れた日本人はその敵の美点を認めた。》
 近代において日本は三度の奇跡を行っている。その一つが戦後の高度経済成長だった。吉田はこの奇跡を、日本人の潔さに起因していると説く。
 もう一つの奇跡は「日露戦争」である。あるいは日露戦争に至るまでの明治期の研鑚と言ったほうがいいかもしれない。
 インドの初代首相ネルーが、日本の日露戦争勝利のニュースを知った時の感動をこう言っている。
《アジアの一国である日本の勝利は、アジアのすべての国々に大きな影響をあたえた。わたしは少年時代、どんなにそれに感激したかを、おまえによく話したことがあったものだ。たくさんのアジアの少年少女、そしておとなが、おなじ感激をした》
 WBCでの王ジャパンの活躍に、イチローのタイムリーに感激した日本人がいたように、白色人種に蹂躙されていたアジアの人々が、同じ色の皮膚を持つ日本人が白人の帝国ロシアに勝利したことを我がことのように喜んだであろうことは想像にかたくない。
 三つ目の奇跡は先の戦争である。大東亜戦争、太平洋戦争、第2次世界大戦など呼び名はどうでもいい。あの戦争で白人の帝国を向こうにまわし日本人は一億火の玉となって戦った。戦争の是非はある。しかし一時代、地球の六分の一をその勢力下に押えたことは紛れもない事実なのだ。
 現在、日本人というアイデンティティーに誇りを持たない輩が多い。昭和が去ってすでに18年の歳月が流れている。もうそろそろ日本人は日本人であることの誇りを取り戻す時期に来ているのではないだろうか。