坐禅

 人中にいると気鬱なことが多い。ことに善き人ほど無神経なバカに心を逆撫でされて傷ついてしまう。ワシャは善き人ではないのだが神経痛で神経質なので、日々ストレスに苛まれついつい酒を飲まずには次の朝が迎えられないのですぞ。
 ところが最近、暇を見つけては坐禅に心がけてみると、これが心のリフレッシュにけっこう効き目があるということに気が付いた。
 道元の『正法眼蔵』の第十一坐禅儀にこうある。
《もろもろの縁を放げ捨て、すべての事柄から離れて身も心も休めさせなければならない。善についても考えない。悪についても考えない。心の活らきや思惟する力から離れ、記憶や苦楽などの想念や覚りを求めることから離れるのである。覚ろうと思ってはならない、日常生活とのかかわりを脱落するのだ。》
 年度末でやらなければならない仕事が堆く積まれていた。そのプレッシャーに神経が参っちまう寸前だったが、道元さんの言うとおり、静坐して善悪を思わず、是非に拘らず、有無に渉らず、心を安楽自在の境に逍遥させれば、心、晴々、頭脳もすっきり、ストレスなんぞは雲散霧消なのじゃ。
 道元は更に優しく坐禅の方法を指南してくれている。
「頭についた火を払うようなひたむきに坐禅に没入すること」
「昼夜とも暗くしてはならない」
「冬は暖かく夏は涼しくするのがよろしい」
坐禅のときには組んだ足の半分から後ろに敷き、重ねた足の下側は敷物にあたり、背骨が蒲団の上になるようにする」
 ワシャは坐禅を組むときに、CDで波音を流しながらやっている。効果はてき面で頭にこびりついていた錆が溶けてゆくのが実感できるのだった。
 別段、CDをかける必要はない。思い立ったら座布団が一枚あればすぐにできる。1円もかからず、なおかつ危険もない。あのお釈迦さんも道元さんも薦めているのだから、みんなでやりましょう。明るい部屋で、坐禅を組んで、目を半ば閉じ半ば開き、ひたすら無念無想無念無想……zzzz
 おっと、眠ってはいけませんぞ。