不良の効能

 昭和50年頃の話である。ワシャの住む三河の町には田舎の不良たちが随分といた。やつらはスカマンとかボンタンと呼ばれるだぶだぶのズボンと長ランと呼ばれる長い学生服を着て町を闊歩していた。『ビーバップハイスクール』のトオルやヒロシの格好を思い浮かべてもらえればいい。
 やつらには縄張りがあってJR駅の表はA高校、裏はB工業、私鉄駅周辺は私立C高校と決まっていた。だからA高のツッパリくんが私鉄の駅から名駅に行こうとするのは結構、デンジャラスなことだった。三河辺りでは普通の学生に追い込みをかけるほど、不良はすれていなかった。だから普通の格好をしている学生さんは駅前にたむろする不良たちにジロリと睨まれることはあっても、ただそれだけだった。でも、リーゼントに黒のクールネック、特注のスカマン、白のコーバン、エナメルの靴なんて格好で駅前にやってくるものですから、すぐにC高校のワルに捕捉されてしまう。
「どこいくの、お兄ちゃん」
 そりこみの深いいかにもバカそうな学生だ。
「なに気取って歩いてんの、お兄ちゃん」
 おまえの兄貴じゃないんだよ!
「おらおら、黙っていないで何とか言えって!」
 うるせえな、こんなやつ、タイマンならどうということもないんだが、このバカの背後にはC高のいかれた連中が5人もいる。逃げるか。
「兄ちゃん、兄ちゃんって、うるさいんだよ、バカ!」
 と、手にしていたカッツンバッグを顔面にくらわせて、駅の改札の方向めざして猛ダッシュをする。
 だけどね、当時の不良は元気だった。携帯電話なんてなかったから包囲網をつくられるということはなかったけど、とにかく執拗に追ってきたんですぞ。
 結局、その日は私鉄沿線を鬼ごっこしただけで、名古屋には行けずじまいだった。

 という話をある友達から聞いたことがありました。

 この話は実は次の話の前振りで、核心の話は明日のこころなのだ。