人変わり

 昨夜も年末警戒の陣中見舞に地元の消防団詰所に出かける。午後8時には顔を出すつもりだったが、夕方から『信長の棺』を読み出したのがいけなかった。これが結構おもしろくってはまってしまった。読み終わって時計を見れば午後9時を回っている。あわてて防寒着を着こむと自転車で詰所に向かった。
 詰所には10人程の団員が消防車両を出した後の車庫内にストーブと椅子を出して待機していた。座敷をOBに譲るためにである。「ごくろうさま」と声をかけて座敷に上がる。すでに4人のOBが酒盛りを始めていた。今日のメニューは味噌煮込み、ちゃんこ、スキヤキである。スキヤキの牛肉はかなり上等だ。いただきま〜す。
 この酒盛りOBの中にXさんという50代半ばの工務店経営者がいる。人間はいい人なんだが、とにかく酒に飲まれるタイプの人で酒が入るとやたらとからみ出す。去年の年末警戒の折もやたらとボルテージが上がって、現役もOBも随分と閉口した記憶がある。
 ところが今夜は違っていた。覇気がないのだ。酒の飲み方もいつものように「浴びる」という感じではない。ワシャが顔を出して30分もすると、座布団を枕にして寝てしまった。
ワシャ「Xさん、元気がないですね」
OB「X、最近、離婚したんだよ」
ワシャ「そうだったんですか」
OB「毎日飲み歩いて、あちこちに女こしらえて・・・ついにカミさん、堪忍袋の緒を切っちまったんだな」
ワシャ「ありゃー」
OB「離婚してからめっきり老けちまってさ・・・」
 そう言われてみれば、白髪も増えているし、寝入った表情は疲れきっている。実際の年齢よりも十は年嵩に見えた。
 10時を回って来客も増え酒盛りは佳境に入った。皆、Xさんのことなど忘れて大騒ぎをしていた。嵐が去って、ふと気がつけばXさんの姿は消えていた。現役に訊ねれば、「先ほどふらっと外に出て行かれました」とのこと。うるさいんで帰宅されたんでしょうね。
 Xさん、離婚して別人になっていた。