腰痛伝説 vol.2

 新舞子でのぎっくり腰の後、1週間ほど会社を休んだ。2、3日はトイレすら自分の力ではいけないのだから情けない。しかし職場には「ウインドサーフィンをやっていてぎっくり腰になりました。1週間の休暇をください」とはさすがに言いづらかった。いろいろ考えた挙句、「自宅で家具の配置換えをしていて、箪笥を持ち上げたときに腰を痛めてしまった」ということにして、上司に報告をした。
 5日後のことだ。昼過ぎのことだった。腰のほうも随分とよくなっている。退屈なので居間に布団を敷き寝転んでテレビを見ていると職場の同僚(ウインドサーフィン仲間)から電話が入った。
「課長が営業に出たついでにワシャの見舞いにいくと言っている。注意せよ」
 これだから友人はありがたい。別にやましいことをしているわけではないが、取り敢えず心の準備と布団回りの寛いだ雰囲気だけは払拭しておける。
 午後3時過ぎに上司はやってきた。同僚も随行している。
 上司は「そりゃぁ大変だったな、気を付けなければいかんぞ」とお説教だ。「で、どの箪笥を運んだんだ?」と訊くから、仕方ないので適当な箪笥を選んで「あの箪笥でございます」と言う。「ほう、あれか、重そうだな。あれでは腰を痛めるなぁ、もっと注意してやらなければだめだ」ともっともらしい顔つきで言う。
 その上司の背後で同僚が「クックックック・・・」と笑いを必死にかみ殺していた。

 1週間後に職場復帰すると「ワシャが海で箪笥を持ち上げて腰を痛めた」という話がまことしやかに流れされており、「二十五青年漂流記」はいつのまにか「新舞子箪笥事件」にすりかわっていた。
 顔を合わせる同僚は誰もが「プッ」と笑ってからお見舞いの言葉をかけてくれるのであった。