モース嘆く

 エドワード・シルヴェスター・モースという人物をご存知だろうか。知っている人は知っているアメリカの動物学者で日本に来て電車の窓から大森貝塚を発見した人である。「日本の考古学の父」と言ったほうがいいのかもしれない。
 手元にある『詳細日本史』(山川出版社)では「貝塚の研究はモースが1877(明治10)年に東京の大森貝塚を発掘・調査したことに始まる」と書かれている。
 そのモースがこんなことを言っていた。
《驚くことには、また残念ながら、自分の国で人道の名において道徳的教訓の重荷になっている善徳や品性を、日本人は生まれながらに持っているらしいことである。衣服の簡素、家庭の整理、周囲の清潔、自然及びすべての自然物に対する愛、あっさりして魅力に富む芸術、挙動の礼儀正しさ、他人の感情に就いての思いやり・・・これらは恵まれた階級の人々ばかりでなく、最も貧しい人々も持っている特質である》
 ううむ、ちょっと褒め過ぎの嫌いもあるが、まあモースが来日したころはそれでも日本人が毅然としていた時代だったんだよね。
 モースと時を同じくして日本を訪れた英国婦人がいた。旅行家のイザベラ・バードである。彼女も日本人の礼儀正しさ、親切さ、清潔さ・・・に感動している。なんといい民族ではないですか。
 でもね、ちょっと前のニュースに「岩手のコンビニのオヤジさんが、コンビニのゴミ箱に家庭ゴミを捨てていくバカどもに腹を立てて、店頭からコンビニを撤去した。」という記事がありました。
 あららら、モースやイザベラ・バードが感動した日本人はどこに行ってしまったんでしょうね。
「礼儀なんて糞食らえ」
「人のことなど構っていられるかよ」
「ゴミ箱がそこにあるからいけねえんだよ」
 世間はこんなバカばっかりが増殖し、礼儀正しき日本人の肩身は益々狭くなっております。
 こうなってくると国策でバカの躾をしなければならない時代が必ずやってくると思いますよ。