青春の始まった日

を、憶えていますか?
 青臭い話で恐縮だが、ワシャは憶えている。ワシャの青春は中学3年の2月14日に始まった。
 クソガキだったワシャはその日も悪ガキグループとともに校内をじゃれまわっていた。中学3年にもなると彼女のいるませたヤツがいて、すでにAだのBだのと自慢しあっていたが、ガキンチョワルシャワは砂場でプロレスごっこをしたり、ボールを蹴っているほうが楽しかった(ホントにガキっすね)。昼休みが終わって2階の教室に戻ろうと、階段を2段飛ばしに上がってくると(ホントに元気っすね)、薄暗い踊り場で同じ町に住んでいる幼馴染のS子に呼びとめられた。
ワシャ「なんだよ」
 女子のほうから真顔で声をかけられるということがなかったので、動揺を悟られぬように極力不機嫌を装いぶっきらぼうに応じた。
 S子は友人に頼まれたとかで、小さなプラスチックケースに入った銀色のペンダントを「受けとってほしい」と手渡すのである。
ワシャ「いらねえよ」
 S子の友人にはまったく興味がなかった。「どうしても受けとって」と言うS子との間で押し問答があって、そんなつもりはなかったのだが弾みでペンダントケースを床に落としてしまった。ケースは音をたてて割れた(劇的ですなぁ)。S子から見ればワシャがペンダントを棄てたように見えたのだろう。みるみる彼女の目には涙がたまって・・・
 その時だった。「あれっ?S子、かわいいじゃん」と不意に思ってしまったのだ。何年も前から知っていたのだが、そんな感情が湧いたのは始めてだった。S子は「ワシャ君、ひどいことをするんだね!」と怒りを露わに捨て科白を残し、スカートを翻して自分の教室のほうに去っていった。
 ワシャは床に落ちたペンダントとペンダントケースを拾い集めて(みっともねー)、授業にもどったのだが、S子の涙をためた表情が脳裏に焼き付いて離れない。生まれて始めての変な感情の発露にとまどい、それまでは廊下で遭えば必ずといっていいほどちょっかいをだしていたのが、声すらかけられなくなってしまった。うじうじしているうち卒業式となり、お互いに別々の高校に進学してしまったので、それ以来、会うことはなかったが、思えば、あの時が青春の始まりだったのだなぁ・・・と中年のおじさんは確信するのだった。(やっぱり青臭くてごめんなさい)