桜の樹の下で その2

 30代半ばに見える先生がやってきた。子どもたちは「死んでるー」、「気持ち悪い」、「かわいそー」とか適当なことを口走っている。先生はじーっと鳩の死骸を見つめている。
 先生!ここが倫理教育の見せ所でっせ。金八先生とは言わないが、生き物、命について学習させる絶好の機会だぞ。頑張れ。心の中でワシャはエールを送り続けた。
 先生は何を思ったか、鳩の死骸を箒で動かし始めた。ズリズリズリズリ・・・う〜む、多分、あの行動には何か深い意味があるに違いない。ワシャは身を乗り出した。鳩はズリズリ引きずられて歩道から車道に出た。先生は独り言を言いながら車道を横断し、公園側の側溝の手前まで鳩を運んだ。
「先生・・・何をやっているんだ」
 先生は鳩が側溝に落ちないぎりぎりの場所にまで押しやると、また学校のほうに戻っていった。
「おーい、先生、それで終わりかよ」
 チャイムが鳴って、先生も子どもたちも何事もなかったかのように校舎の中に消えていった。
 ふう・・・子どもたちはあの先生から何を学ぶのだろうか。死んだ鳩をゴミのように扱い、それも自身でどうこうするということではなく、ただ単に公園側に押しやり責任を公園管理者になすりつけただけの無責任さに、子どもたちは何を学ぶのだろうか・・・
 鳩の死骸には、はらはらと散る桜花がまるで手向け花のように寄り添っていた。天の供養のようじゃ・・・
 さてと天気もいいことだし、ワシャもそろそろ去ぬるとしようか。どっこいしょと。(←お〜い、お前は何もしないのか!)
 あっ、そうそう公園の管理者に電話をしなくっちゃね。忘れてました。